変革しないことが最大のリスク
コアコンピタンスを見極めよ

 そうしたビジネス環境の中で、日本企業が成長していくためには何が必要でしょうか。

高橋 マーケットが右肩上がりで成長している時代は、他社と同じようなことをやっていてもビジネスは成立しましたが、いまは違います。変革しないことが最大のリスクとなる時代を迎えています。そうした中では、自社のコアコンピタンスを見極めることが大切です。変えてはならない強みが何かをよく理解したうえで、それ以外はスピード感をもって、大胆に変革していくことが求められます。さもなくば、持続可能な成長を遂げることは不可能です。

酒井 日本企業の多くは大胆に変わることがなかなかできません。戦後、日本企業は世界の先進事例や成功事例を徹底的に調査・研究し、それを改善・改良しながら発展してきた歴史があります。その手法はいまでも大きく変わっていません。それでも生き残ることができたからだともいえます。

 欧米の企業も1980年代までは同じような状況でした。それほど大胆に変わる必要はありませんでした。ところが、90年代以降、新しいテクノロジーが次々と生まれました。特にアメリカではシリコンバレーを中心に、IT関連のイノベーションが連鎖的に誕生していきます。その結果、アメリカの名目GDP(国内総生産)は過去20年間で2倍以上に成長したのに対し、日本は変わらないどころか、減少しています。リスクを取って古いものを捨てて、新しいものをつくり上げる文化がアメリカにはあり、日本にはなかった。その違いは大きいと思います。

 右肩上がりの時代は終わり、いまは解なき時代です。国内マーケットが右肩下がりの日本企業にとって、変革を遂げなければ現状を維持することすら難しいのです。「不作為のリスク」といいますか、何もしないことのリスクを真剣に考えるべきでしょう。みずから課題を設定し、その解決に向けてチャレンジしていくべき時です。もちろん、失敗もあるでしょうが、リスクを恐れていては前に進むことができません。

最先端テクノロジーと
創造的破壊で内外格差

 グローバルな観点から見た場合、世界の先進企業と比較して、日本企業の意欲や取り組みの違いといったものはありますか。

高橋 KPMGは2015年に続き、主要10カ国、11業種のCEO約1300人に対し、「KPMGグローバルCEO調査2016」を実施しました。調査の結果、自社が今後3年間で大きく変革すると予測している割合は、世界も日本も変わらず、前回調査の結果より高くなっています。このことからは、日本を含む世界中のCEOが、経済環境の大きな変化にいち早く対応することの重要性を実感していることがうかがえます(図表1)。

 一方、最先端テクノロジーと創造的破壊(ディスラプション)においては、世界と日本のCEOの間に顕著な差が表れました。世界のCEOは、技術革新の速い最先端テクノロジーに自社が追随していけるかどうかについて77%が懸念を示し、今後の最も重要な投資対象分野と位置付けているのに対し、日本のCEOは44%に留まっています。

 また、世界のCEOは、自社が業界のビジネスモデルに十分な創造的破壊をもたらしているかどうかについて、53%が懸念を示しているのに対し、日本のCEOは34%です。これらの違いが、世界の先進企業と日本企業の間に変革のスピードの差を生み出したり、マーケットでの優勝劣敗につながったりする可能性があります(図表2)。