世界的な地政学リスクの浮上や経済動向の流動性に加え、破壊的テクノロジーの発展が企業経営の見通しをいっそう不透明にしている今日。そうした不確実性がもたらす不安が、成長への自信を上回り、経営の保守化傾向を強めてはいないだろうか。不確実性の時代にあって日本企業が取るべき針路を、KPMGジャパンのリーダーが提言する。
ますます高まる不確実性
日本のCEOは警戒顕著
編集部(以下青文字):まず、現在の世界情勢や経済動向についての見解を聞かせてください。
高橋:一言で言えば、ますます不確実性が高まったということでしょうか。
たとえば、2017年を振り返ると、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)政策や、イギリスのEU(欧州連合)離脱問題など、保護主義的な潮流が強まったように見受けられます。
一方で、そうした保護主義的な動きに対抗すべく、世界のリーダーたちが自由貿易推進の重要性をさまざまな場面で語っています。今後、アメリカが求めているような2国間の自由貿易協定(FTA)を締結する流れが強まるのか、あるいは多国間での経済連携が復活するのか、国際貿易だけをとらえても、その行く末は混沌とした状況にあります。
酒井:地政学的なリスクの問題も浮上しています。北朝鮮による核実験やミサイル発射実験が政治的緊張を高めており、周辺諸国をはじめとする世界各国に今後どのような影響を及ぼすか計り知れません。また、中国の台頭などにより、アメリカの政治的、経済的な牽引力が弱まってきており、各国・各地域の地政学リスクに伴う不確実性を高める結果となっています。
中国に関して言えば、バブルの崩壊を懸念する声が中国の外でずっと続いていますが、人口13億人を超える大国で、国土も広い。一つの国ではありますが、ヨーロッパと同じように複数の先進国と新興国を内包した巨大な国家連合のようなもので、ある地域の経済が落ち込んでも、ほかの地域がそれを補う底堅さがあります。ですから、中国経済全体が失速していく可能性は、少なくとも短期的には非常に低いと見ています。
高橋:足元の世界経済動向を見てみると、アジアやヨーロッパの新興市場諸国、そしてロシアの復調などが、アメリカとイギリスの下方修正を相殺した結果となっています。2016年の下半期に始まった世界経済活動の上昇は、17年の上半期にさらに勢いを増し、世界経済は緩やかな回復基調にあるといえます。
IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し」(World Economic Outlook、2017年10月時点)によると、世界経済の成長率は、16年は世界金融危機以来最低の3・2%でしたが、17年は3・6%、18年は3・7%へ上昇すると予想されています。経済活動の世界的な復調傾向は強まっていると見ていいと思います。
酒井:KPMGでは、経済動向や企業の優先的戦略事項などを把握するため、世界の主要10カ国のCEOを対象に、独自の調査「KPMGグローバルCEO調査2017」を実施しました。その結果を分析すると、今後3年間の世界経済について「非常に自信がある」または「自信がある」と回答した割合は65%と、16年の80%に比べ低下しています。足元の経済活動の上昇を肌で感じつつも、先行きについては不透明さがぬぐえない、ということではないでしょうか。
この傾向は、日本企業においてさらに顕著に表れており、「非常に自信がある」「自信がある」と回答したCEOは、ほぼ5人に1人しかいませんでした。
私は世界経済の不安定化要因は大きく2つあると考えています。一つはイギリスのEU離脱交渉の結果に左右されるヨーロッパ経済、もう一つは各国の金融政策に大きく左右される金利の動向です。特に日本は、日本銀行による異次元金融緩和の出口戦略が見えていないだけに、企業経営を直撃する金利と為替の動向が読みづらい。その点も、経済の不確実性を日本のCEOがより深刻にとらえている要因の一つかもしれません。
日本企業の経営環境や業績については、どのように見ていますか。
高橋:世界経済の回復や円安基調に伴う輸出の増加を追い風に、製造業をはじめとして幅広い業種の収益が高水準で推移し、四半期での経常利益が過去最高を更新するなど、2018年3月期は上場企業全体で過去最高の純利益が見込まれます。
また、日経平均株価が、17年11月9日におよそ25年ぶりに2万3000円台となり、バブル経済崩壊後の戻り高値を更新するなど、国内企業の業績は確かに明るい兆しを見せ始めました。