逆算の経営で
創造的破壊を起こす

 今後、日本のCEOはどのようなアジェンダに注力していくべきでしょうか。

高橋:繰り返しになりますが、「人材の多様性」は非常に重要なテーマです。日本の生産年齢人口が減少の一途をたどっている状況において、人材の確保は難しくなる一方です。

 これに対応するためには、女性・高齢者の積極的な登用とともに、海外人材の受け入れも不可避だと思います。

酒井:移民に関する議論を日本は敬遠しがちですが、正面から議論すべき時期に来ていると思います。国家百年の計ですから、早急に結論を出すわけにはいきませんが、議論は始めておくべきです。

高橋:組織の多様性を高めていくことは、結果的に誰もが働きやすい職場環境の整備につながります。たとえば、介護と仕事の両立を可能にするなど、働く意思を尊重して幅広い人材を受け入れられるような組織や風土を有する企業には、優秀な人材が自然と集まってくるはずです。

 異能を組織に取り込むことで、前例踏襲の経営ではなく、「自分たちは10年後にどうならなくてはいけないか」というビジョンを描いて、そこから逆算していま何をやるべきかを考える。そういう逆算の経営が、創造的破壊を起こすことにつながっていくと思います。

 そのうえで、世界から集まった異能たちをまとめ上げていく懐の深さとグローバルマインドを持った経営者が増えてほしいですね。

酒井:いまさらと言われるかもしれませんが、そのためにもやはり英語力を身につけることが大事です。言語運用能力よりも話す中身が大事だという議論をよく耳にしますが、日本人は総体的に優秀で話す中身は十二分にあります。後はそれを伝える英語力さえあれば、グローバル組織のリーダーとして十分通用する人が大勢いるはずです。

 もう一つ欠かせないのは、挑戦を奨励する文化の醸成です。ベンチャーエンタープライズセンターによる起業活動の国際比較を見ると、日本はアメリカのみならず、中国、韓国、シンガポールなどアジアの国々より人口に対する起業家比率が低いことがうかがわれます。

 その背景として、日本においては失敗を恐れるあまり、前向きな挑戦に尻込みしてしまう人が多いことが挙げられるのではないでしょうか。果敢にチャレンジしていく人材をいかに育てるかということは、国家の教育政策を含めて日本が抱える大きな課題の一つといえると思います。【完】


  1. ●企画・制作:ダイヤモンド クォータリー編集部