日本の景気は回復基調だが
脆弱性を内包している

酒井:とはいえ、グローバル規模で見ると、日本企業の存在感は徐々に低下しています。たとえば、世界の時価総額上位の顔ぶれを見ると、日本企業が上位にランクインしていた過去とは大きく異なり、現在は情報・通信系を中心としたアメリカ、中国の企業が上位を独占している状況です。

 加えて、日本の時価総額上位企業は、伝統的な大企業が多くを占め、歴史の浅い企業が劇的に躍進しているグローバル市場とはかなり違う様相を呈しています。海外に比べて国内では大きな変革が起きていないことが、この点からもいえると思います。

 為替変動に対する脆弱性を内包したままの景気回復と言ってもいいでしょう。

高橋:日本で大きな変革や新陳代謝が進んでいないことは、CBインサイツ社が2017年9月に発表した世界のユニコーン企業(企業価値が10億ドルを超える非上場のベンチャー企業)リストにも如実に表れています。

 上位10社を見ると、アメリカ企業が6社、中国企業が4社と、米中が独占しており、日本企業は一社も入っていません。アメリカと中国のテクノロジー産業の成長は目を見張るものがありますが、日本においては世界的に注目されるほどのユニコーン企業は、まだ生まれていません。

酒井:先ほど触れた通り「KPMGグローバルCEO調査2017」では、日本企業のCEOは世界経済の成長に対する自信を大きく減少させていることがわかったのですが、一方で、今後3年間の自社の成長については約88%と圧倒的多数が、「非常に自信がある」または「自信がある」と答えています。これが、十二分に検討し尽くされた成長戦略から生じる自信であればいいのですが、そうではなくて、ただ漠然としたものであったり、あるいは急成長するユニコーン企業が業界の秩序を破壊する状況を対岸の火事のように眺めているだけであったりする結果であるならば、不安を禁じえません。

 2017年に国内のニュースを賑わせた日本の株価上昇も、アメリカの株価推移と比較してみると、成長力に自信を持てるような状況にはないことがよくわかります。バブル崩壊以降の最高値を更新した17年11月9日の日経平均株価は、1989年1月に比べて20%以上低い水準ですが、同じ期間にニューヨーク株式市場のダウ平均株価は約11倍に上昇しています。

高橋:日本国内においては、ベンチャー投資もまだまだ活発とはいえません。「ベンチャー白書2016」(一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター発行)によれば、2015年のベンチャー企業に対する投資実行額を国際比較すると、アメリカが7・1兆円と群を抜いており、次いで中国が2・5兆円で、いずれも過去最高額を更新しています。

 これに対して、日本は約1300億円と両国の足元にも及ばない状況です。2011年から5年間の推移を見ても、日本のベンチャー投資額、投資件数はともに横ばいとなっています。これでは、米中のようなユニコーン企業が生まれないのも当然といえるかもしれません。

酒井:日本では2010年頃から人口が減り続け、このままでは2050年頃には人口1億人を割るとの推計が出ている通り、生産年齢人口も減少の一途をたどる可能性が高いのはご存じの通りです。中長期的な成長という観点から見ると、株価水準の回復を手放しで喜んでいられる状況ではありません。

 既存の秩序を創造的に破壊しつつ、成長に結び付けていくことが、日本経済にとっては喫緊の課題だといえます。