組織変革を促し
イノベーションを創発する
秋元:私はかねがね、デジタル・トランスフォーメーションには2つの類型があると考えています。一つは、企業自体の内部効率化などを目的にオペレーティングモデルを変えるというもの。もう一つは、デジタル化を活用してビジネスモデルそのものを変えるデジタル・トランスフォーメーションです。
前者は、これまで日本人が得意としてきた効率化の延長線上にあり、導入も比較的容易です。その意味で、ロボティクスやプロセス・オートメーションが、本質的なデジタル・トランスフォーメーションといえるかどうか……。たとえば金融機関の融資判断をAIに委ね、人が介在しないとなれば、デジタル・トランスフォーメーションといえそうです。
三枝:ブロックチェーン等を活用して、伝票処理のようなものがすべて排除されるといったものですね。
秋元:そこまでのデジタル化を実現できている例はまだ少ないと思いますが、金融をはじめサービス業では、顧客との接点で業務効率化型のデジタル・トランスフォーメーションに取り組みやすい面があります。一方で、ビジネスモデルの変革となると、これまでとは違った考え方、取り組み、発想の転換が求められ、イノベーションに近いものです。
三枝:ブリヂストンでは、デジタル・トランスフォーメーションを、①デジタル・フォー・ブリヂストン、②デジタル・フォー・カスタマーズ、③デジタル・フォー・エコシステムと、3つのステージでとらえています。最終的には、秋元さんのおっしゃる後者のデジタル・トランスフォーメーションで、ビジネスモデルの変革を志向しているのですが、やってみると、お客様にきめ細かなサービスを提供するには、我々自身のサプライチェーンが非常にリーンで、フレキシブルでなければならないと気づいたのです。
秋元:カスタマー・セグメンテーションを行い、カスタマーの動向を分析して、最適なソリューションを提供することをフロント(最前線)で志向したところで、ミドルオフィスやバックオフィスでも対応できるのかが課題ですね。これまでは、プロダクトや代理店チャネルなど、どちらかというと内部論理で組織やオペレーションを構築することが一般的でした。それが、デジタル・プラットフォームができてくると、お客様の志向に合わせたプロセスを構築しなければならず、おのずと組織の構築法も変わってくるはずです。
三枝:当社でも、生産、流通、サプライチェーンなどの情報を全部クラウドにつなげて、状況が見えるように、というところから始めました。また、グローバルで多種多様なサイズを生産しているタイヤ全体でいっせいに、というのではなく、まずは鉱山向けの製品を利用していただいている特定のお客様を対象に、ビジネスを展開するに至ったのです。
秋元:今後、他の製品やお客様に対しても、ソリューション提供のためのビジネスモデル変革を進めるのですね。
三枝:すでにトラックやバスを使用する運送事業者向けに、すり減ったタイヤの表面を張り替えるリトレッドや適切なタイヤローテーションで、タイヤの寿命を延ばしてトータルコストを抑えるソリューションを提供しています。リトレッドのユニークな技術を有するアメリカの企業を買収したのも、ソリューションを具現化する体制を整えるためです。