モノの製造販売、サービスの提供を中心にするビジネスから、ソリューションを提供するビジネスモデルに転換する時、それを支えるのがデジタル・トランスフォーメーション(デジタル変革)である。イノベーションを促し、企業と消費者の関係、社会のあり方を変えるデジタル・トランスフォーメーションをどのように進めればいいのか。組織に根付かせるには何をすべきか。2人の実践者に語ってもらった。

デジタル化で新ビジネスに
新たな価値の付与を模索

秋元:デジタル化はいま、新たな次元に至っています。テクノロジーは、産業革命の時代からビジネスを大きく変えてきました。第3次産業革命までは、テクノロジーの進化による大量生産時代の業務効率化でした。しかし、今日の第4次産業革命は、圧倒的なスケーラビリティと効率性の追求に変わっています。

デジタル・トランスフォーメーションで<br />イノベーションを創発せよ
ブリヂストン 執行役員 チーフ デジタル オフィサー 兼 デジタル ソリューション センター担当
三枝 幸夫 
YUKIO  SAEGUSA
1985年、ブリヂストンに入社。タイヤ生産システム開発本部長などを経て、2017年1月に執行役員CDO(チーフ デジタル オフィサー)・兼デジタルソリューションセンター担当に就任。2020年までの中期経営計画に掲げられた「製品販売からソリューション提供へ」という命題を、IoTやAIなどの先進技術を活用し、IT、デジタル面から支援する役割を担う。

三枝:デジタル化という言葉自体、急に広まってきました。IT化と言っていた時代は、効率化に向けていかにITを使いこなすかが主眼でした。それが、ここ2、3年で、ビジネスモデルの変革を目的に、IoTやAIをどう活用するかといったことに関心が移っているように思います。しかも、変革はエクスポネンシャル(指数関数的)に加速しているというのが実感です。

秋元:たしかにそうですね。フィリップ・コトラー教授は“digitalize or die”(デジタル化するか、さもなくば死ぬか)と表現していますが、デジタル化は、今後、企業にとって不可避の命題となるはずです。タイヤ業界においても、タイヤをつくって売るという従来型のビジネスモデルから脱却しなければいけないという危機感があるのではないですか。

三枝:もちろん、感じています。2005~6年頃、当社をはじめ業界のビッグスリー(他はミシュラン、グッドイヤー)で、タイヤのグローバルシェアは50%以上でしたが、シェアがじりじりと縮小しています。タイヤがコモディティ化していることが大きいです。空気圧がゼロになっても一定距離を走行できるランフラットテクノロジーや超低燃費タイヤなど、製品の差別化には力を入れてきましたが、それだけでは限界があります。製品自体のスペックに加えて、新たな価値の付与を模索し始めたわけです。

 そこで、お客様の困り事を解決して新しい価値を見出していくソリューションへと軸足を移したのが2年前で、顧客利益の追求によるエコシステムの構築と運用を目指しています。カギになったのは、デジタル化です。

デジタル・トランスフォーメーションで<br />イノベーションを創発せよ
KPMGジャパン チーフ・デジタル・オフィサー KPMGイグニション東京 統括責任者
秋元 比斗志HITOSHI AKIMOTO
国内外で20年以上のコンサルティング経験を持つ。外資系金融機関のCOO、CIOを経て、2011年に設立されたKPMGマネジメントコンサルティング代表取締役社長に就任。2014年の合併後、KPMGコンサルティングでマネジメントコンサルティング部門を統括した後、現在はイノベーションおよびグローバル戦略を担当。2017年11月よりKPMGジャパンのCDOを兼任。

秋元:デジタル化により、モノを売るビジネスモデルからソリューション提供に変えていく、まさにデジタル・トランスフォーメーションの好例ですね。具体的にはどのように取り組まれたのですか。

三枝:たとえば、鉱山で稼働する車両のタイヤでは、B-TAG(Bridgestone Intelligent Tag)と呼ぶセンサーをタイヤに装着し、タイヤ一本一本にかかる空気圧と温度をリアルタイムで把握し、サービスにつなげていく仕組みを構築しました。

 空気圧が低いと、燃費が悪くなります。重量物を運搬すると、タイヤの温度が上昇して劣化の原因の一つになります。つまり、空気圧や温度の管理、タイヤのローテーションなどを適切に行うことで、お客様の生産性を高めることができるわけです。

秋元:システムの構築には、お客様との緊密な連携が必要なのでは。

三枝:そうですね。我々は、タイヤがどんな状態であれば、より性能を発揮できるかといったことに精通しています。一方で、お客様企業には、これまで培ってきたノウハウや運行計画があります。双方のコミュニケーションを濃密にして、お互いのナレッジや計画を突き合わせていく。そして、最も高い効率を期待できるソリューションをともに構築していくことが重要です。