
米国のトランプ政権が他国に課している高率の相互関税が発動される日が近づいてきた。しかしながら、関税はグローバルな部品供給網に依存する米国の製造業にとっても逆風だ。中でも建機、農機の最大手であるキャタピラーとディア・アンド・カンパニーは多くの主要部品を輸入しており、その影響や影響回避策が注視されている。特集『関税地獄 逆境の日本企業』の本稿では2社の今後を考察する。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎、金山隆一)
「米国の製造業振興」掲げるも
自国の製造業の首を絞める関税政策
米国のトランプ政権が掲げる相互関税の発動までひと月を切った。一時停止の措置が延長されるかどうかか焦点だが、注目されているのが米国の製造業へのダメージだ。
世界トップの建機メーカー、米キャタピラーと、農機世界最大手のディア・アンド・カンパニーは共に米国を代表する製造業だ。ところが、皮肉なことに、トランプ関税のダメージが甚大なのだ。
両社共に完成機は米国の工場で組み立てているが、油圧機器や電装部品、足回りの部品など、多くの主要部品を米国外から調達しているためだ。海外のサプライヤーから部品を調達して組み立てているのは、航空機大手のボーイングと同じ構造だ。
キャタピラーは4月末、関税政策が続いた場合、2025年12月期の売上高と収益が前期に比べて減少する見通しだと明らかにした。キャタピラーの24年12月通期の売上高は約9兆2600億円だった。関税コストに加えて今年後半に予想される景気後退が売上に影響すると見込む。関税の影響がなくなる場合、収益は「ほぼ横ばい」になると予想している。
肝心の関税によるダメージだが、キャタピラーは25年4~6月四半期の関税コストが約370億~510億円に上ると試算している。世界2位の建機メーカー、コマツが関税影響で25年3月期は約940億円減益すると想定しているのに比べても、より大きな打撃を受ける見通しだ。ディアも25年10月期の通期の関税コストを約710億円と見込んでいる。
建機・農機の完成機メーカーに主要部品を供給する日系企業は多い。油圧機器では川崎重工業やカヤバ、ナブテスコが大きなシェアを誇る。特に川崎重工は米国勢のみならず、中国の建機メーカーでの採用も非常に多い。中国の油圧機器メーカーの恒立液圧も重要なサプライヤーだ。また、鉱山の採掘現場で使われる超大型のダンプトラックのタイヤではブリヂストンの存在感が大きい。
さらに日立建機はディアに油圧ショベルをOEM(相手先ブランドによる生産)供給している。両社は22年に合弁を解消したが、今でも油圧ショベルの製造は日立建機が担っている。ディア向けの輸出額は24年度で約1400億円に上る。この部分については、ディア側が関税コストを負担しているのだ。
ディアの会長兼CEOであるジョン・メイ氏は「われわれのチームは困難な市場環境にもかかわらず、卓越した業績を達成した。今後も先進的な製品、ソリューション、製造能力への投資を継続し、グローバル市場での競争力を維持していく」と所感を述べている。
「米国の製造業振興」を掲げて展開しているはずの関税政策は、米国の製造業を痛めつけているが、今春以降も2社の株価は安定している。ディアに至っては6月に年初来高値を付けている。なぜなのか。次ページでは足元の米国建機・農機市場の市況も踏まえ、サプライヤー網の対応を考察する。