KAMが拓く
ディスクロージャーの未来

金井:いま以上に経営に資する会計監査にするためには、監査人と監査役、取締役等との議論の機会をいまよりも増やすこと、その中身もより活発で建設的なものにする必要があります。

  先ほど、社外の取締役や監査役の方が情報を必要としているというお話がありましたが、そういうニーズは我々も実感しているところです。社外取締役、監査役等の方から我々にフリーディスカッションの機会を設けてほしいというリクエストをいただき、実現した例もあります。

 議事録なし、NGなしで、何でも聞いていいし、我々も忌憚なく知りうる限りの真実をお伝えする。まだ一部ではありますが、監査を経営に役立てようという動きは確実に出てきています。

川本:それはいいですね。そうしたベストプラクティスを積み重ねていくことで、新しい監査の可能性が拓かれるはずです。

 日本の大企業はいまだに封建的な体質を残しているところもあり、同質性が高い。まるでお城のようだと感じることもあります。そこに風穴を開けていくためには、多様で多層的な社外の視点が必要です。取締役会で本質を突いた「正しい質問」をすることは、社外の取締役および監査役の最も大事な仕事だとよくいわれますが、これはとても難しい。外部監査人からの情報は、いろいろなことを考えるきっかけにもなるように思います。

金井:監査はいま転換点を迎えています。監査意見には無限定適正意見、限定付適正意見、不適正意見、意見不表明の4つしかなく、ほとんどの上場企業の監査報告書は無限定適正意見がつきます。つまり、その財務諸表は「おおむね適正」だということです。ただ、これでは監査の過程でどのような検討がなされたのかが外からはわかりません。「ブラックボックス」だと指摘されるゆえんです。

 こうした意見を受けて、2、3年後を目処にKAM(監査上の主要な検討事項)が導入されることになりました。
監査の過程で監査役等と協議した項目のうち、監査人が特に重要だと判断したものを監査報告書に記載するもので、これにより外からは見えにくかった監査のプロセスが透明化されると期待されています(図表参照)。

 結果として同じ無限定適正意見であったとしても、企業ごとに、監査人がどこに注目して重点的に監査したのかがわかれば、企業と投資家との対話が増えるでしょうし、KAMが前提となることで、監査人と企業との間にもいっそうの緊張感が生まれて対話も増える。単に監査報告書の改善に留まらず、監査を含む企業開示そのものの変革につながります。

 当然、監査に当たる公認会計士に求められる視点やスキルも変わってきます。その会社のビジネスモデルを理解したうえで、どこに潜在的なリスクがあるのか、経営はそれにどう対処しているのかといったことを、監査のプロセスを通じて明らかにする。時には毅然とした態度で、経営陣にチャレンジしなければならない局面もあるでしょう。意志の強さと同時に、相手の理解と協力を引き出す粘り強さも必要です。

 ただし、そのように監査品質を向上させ、ひいては財務報告の質そのものを向上させていくには、ひとり監査法人が取り組めばいいわけではなく、財務報告のサプライチェーンに連なるすべての関係者がその意義を理解し、行動していくことが欠かせません。質の高い情報を提供しようとする企業の積極的な開示、それを評価する投資家や監督当局などが相互に作用し、好循環が生まれると期待されます。