デジタル化社会の到来が、競争相手と競争のルールを一変させようとしている。こうしたディスラプションの時代を生き抜くカギとなるのは、エコシステムの形成を通じた新たな価値創造である。では、そのエコシステム形成の戦略はどうあるべきか。戦略コンサルティング、EYパルテノン(*)の中川勝彦氏に聞いた。

プラットフォーマーへの
価値移転を見据えていたタイヤメーカー

編集部(以下青文字):自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えたといわれますが、トヨタ自動車は先頃、新たなモビリティサービスの創出を目的に、ソフトバンクグループとの提携を発表しました。日本を代表する2大企業のこの提携をどうご覧になりますか。

エコシステム形成による価値創造
ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進部長 (KDDI ∞ Labo ムゲンラボ長)パートナー・マネージングディレクター
中川勝彦 
KATSUHIKO NAKAGAWA
企業変革、M&A、グローバル市場参入、組織・事業再編等の経営重要課題に対する多くの実績を持ち、日系企業経営トップレベルとのプロジェクト、セッションを通じて日本社会の変革をリードする取り組みを行っている。また、日本のデジタル・テクノロジーリーダーとしてエコシステム戦略、デジタル戦略、デジタル・トランスフォーメーションを実施するうえで新たなコンサルティングスタイル、プラットフォームの導入を推進している。

中川(以下略):デジタル化の進展によってあらゆる業界でディスラプションが起きつつあります。

 その典型例の一つが自動車業界です。いわゆるCASE(注)(相互接続、自律走行、シェアードサービス、EV=電気自動車)というキーワードで示される大変革の波が押し寄せており、競争相手も競争のルールも大きく変わろうとしています。

 この大変革にどう対応するか。OEM(完成車メーカー)の戦略は、大きく3つに分類できます。

 1つ目は、モビリティ社会のプラットフォーマーを目指す戦略です。相互接続で得られるあらゆる情報を取り込み、それを使って新たなシェアードサービスを提供する。将来的に彼らのコンペティターはグーグルに代表されるGAFAになっているかもしれません。

 2つ目は、自律走行車の取り組みを進めデータを収集するけれども、APIで外部の企業にも開放して、アプリケーションやサービスの提供についてはいろいろな人たちに参加してもらう方法。トヨタの豊田章男社長は「未来のモビリティ社会を創設するには、仲間が重要だ」と言っていますが、そういう仲間の一人として、ライドシェアの企業や、自動運転に欠かせない画像処理半導体の企業などに投資しているソフトバンクを選んだのでしょう。

 3つ目は、自律走行車やEVを含めて、とにかく車づくりで勝者を目指す戦略。大手自動車連合はグーグルとの技術提携を発表しましたが、データの収集やサービスの提供はパートナーシップを通じて行えばいい、まずは車づくりで勝たないと何も始まらないというスタンスです。

 この3つのタイプのうち、どこが勝者となるのかはまだわかりません。3つのタイプが共存し、それぞれが別の業界の企業だと認識される時代になる可能性もあります。

*EYパルテノン:成長戦略/デジタル戦略/最適化戦略/トランザクション戦略を4つの柱としてサービスを提供。EYの幅広いサービスラインとともに、ビジネス環境が大きく変化する中で、クライアントのさまざまな問題に対して道筋を示すことにより、 現実的に価値を創出できる支援を提供する。

注)Connected,Autonomous,Shared/Services,Electricの略。

 中川さんはディスラプションの時代を生き抜くためには、エコシステム形成による価値創造が重要だと提唱されていますが、トヨタの仲間づくりもエコシステム形成への試みととらえることができますか。

 まず根本的な話として、モノに価値の源泉があったこれまでの工業化社会では、資本関係を持ったグループや系列企業が垂直統合型の事業形成を図ることで規模の経済を追求し価値を創造することができました。たとえば、自動車にしてもその開発期間は長く、系列企業と長期固定的な関係を築き、すり合わせ技術を磨き上げたり、改善を積み重ねたりすることで商品の付加価値を高めてきました。