2つ目は、スピード感です。具体的にエコシステムを形成する段階になって、M&Aや提携の持ち込み案件に一つひとつ対応したり、情報を集めてリスト化したりしているようでは、変化のスピードには追い付けません。
スピード感をもって対応するには、M&A以外も選択肢に入れることです。通常、M&Aには時間がかかります。それにデジタル化時代のキープレーヤーには多くの企業が注目しているので、資本の出し手はいくらでもいます。そうなると、交渉は簡単にはまとまりませんし、高値買いになってしまう可能性もあります。そういった場合は、資本関係のないアライアンスを進めるとか、合弁会社を立ち上げるといった緩やかな連携のほうが早くスタートを切れます。
また、これまでの競合相手との協創も視野に入れるべきです。たとえば、スマートファクトリー化のためのIoTプラットフォームの提供を謳っている企業は、日本だけ見てもいくつもあります。総合電機やロボット・工作機械メーカー、IT企業などがそれぞれ独自にプラットフォーマーを目指していますが、十分な参加者を集められないうちに、海外企業に先を越されてしまう危険性があります。
日頃から競合関係にある企業同士なら、AIに強いのはどこで、ロボットの制御技術に強いのはどこかといったことはよくわかっているはずです。互いの強みを持ち寄ってオールジャパンでエコシステムを形成するくらいの大胆な発想がなければ、グローバルな競争に取り残されてしまいます。
そして3つ目の大事な点は、エコシステムによる価値創造の時間軸設定です。エコシステム形成はR&Dに近い要素を持っていますから、短期的な投資回収は難しいですし、M&Aやアライアンスがすべて成功するわけではありません。1年や2年先のPL上の利益をKPIに置くのではなく、10年先、20年先を見据えて企業価値をどう高めていくのか。そういう時間軸で価値創造にコミットしつつ、次の世代にバトンタッチしていくことが、経営者には求められます。
エコシステムは
勝者総取りの世界ではない
エコシステム形成を主導できる立場にはない企業は、どう対応すればいいのでしょうか。
エコシステムは勝者総取りの世界ではありません。自然界の生態系を思い浮かべればわかりますが、生態系の頂点にある生き物がすべてを収奪してしまったら、結局は自分も滅びることになります。共生バランスが保たれていることが、生態系が維持される条件なのです。産業界のエコシステムもそれと同じで、キーストーンとなる企業が利益を一人占めするのではなく、バリューチェーンの参加者全体がバランスよく利益を上げられないと持続性はありません。
キーストーンを狙えない企業は、そういう持続性があるエコシステムなのかどうかを前提に、どのエコシステムに参加することが最も自社の企業価値向上につながるのか、どういう形で参加することが自社にとって望ましいのか、それを見極める必要があります。
一度参加したエコシステムから抜け出せないわけではありませんから、環境変化に応じてエコシステムを柔軟に乗り換えることも考えるべきでしょう。
- ●企画・制作|ダイヤモンド クォータリー編集部