海外不正リスク管理に
システム統合は不可欠
次世代監査の恩恵を受けるためには、企業側にもインフラ整備が必要となります。大きな成長が期待できない中、新たな負担には慎重にならざるをえません。
たしかにデータを駆使した次世代監査を行うためには、会計伝票や総勘定元帳、契約文書といった監査の対象となるデータの標準化が欠かせません。しかし拠点やグループ会社内でばらばらのシステムを使っているのであれば、その現状こそが問題なのではないでしょうか。
もちろん一定以上の規模の企業であればERPはほぼ導入済みです。ところがその中身を見ると、国内のグループ会社間でもバージョンが揃っていないとか、カスタマイズの結果、別物のようになってしまっている場合も少なくありません。となれば、海外拠点の状況は推して知るべしでしょう。
いわゆる海外のグローバル企業は、買収したばかりの企業でも海外グループ会社でも、基本的には自社のプロセスやシステムをそのまま適用する。実に徹底しています。日本企業の生産性の低さが問題視されていますが、せっかく資金を投じてERPを入れながら中途半端な導入や運用に留まっていることも一つの要因でしょう。
経理、財務だけの問題ではありません。情報システムは人間の体に例えれば血管であり、神経です。隅々まで張りめぐらせて、情報を集めて経営の判断に活かすと同時に、グループ全体に統制を利かせる。グローバルで事業を展開するうえでは、海外も含むグループ全体でいま何が起きているのかを、時間を置かずに把握することが欠かせません。
自律分散や権限委譲と言えば聞こえはいいかもしれませんが、結果ガバナンスが効かず、不正の温床ともなりかねない。長期的な視点に立てば、プロセスとシステムの統合によるグローバル経営管理の高度化は避けては通れない道です。
日本企業による海外企業買収では、統合し切れずに期待したようなシナジーが実現できないケースが散見されます。システム統合が進まない現状は、クロスボーダーM&Aにおける課題を象徴しているようです。なぜ統合が進まないのでしょうか。
厳しい言い方をすれば、現場に遠慮をしすぎて、やり切る覚悟がないからではないでしょうか。
統一システムを導入しようとすれば、多くのグローバル企業がそうしているように、グループ全体で業務プロセスも標準化する必要があります。つまり、現場にとっては仕事のやり方が変わるということです。当然、抵抗が予想されるし、しばらくの間は効率が落ちることだってあるでしょう。
そもそもハイコンテクストのコミュニケーションで運営されている日本企業では、標準化されたルールやプロセスが存在しないことも珍しくありません。
しかし、標準化とそれによるデータの一元管理は、そうした課題を克服してでも達成する価値のあるものです。同じルールでつくられた、リアルタイムの数字を見て経営判断が下せるようになれば、意思決定の質とスピードが飛躍的に高まる。早さと速さこそが価値を持ついまの時代、これは間違いなく競争優位につながります。
さらに、日本企業の海外グループ会社管理によく見られる2つの悪い癖の解消にも、標準化とデータの一元管理は効果を発揮します。
一つは、本社から送り込まれた人材が現地のマネジメントに入り込めず、蚊帳の外に置かれるパターン。こうなると現地にいても情報が入ってこないし、本社にも「問題なし」としか報告できません。しかし、客観的なデータをもとに管理できるようになれば、本社が直接問題を把握して必要な手を打つこともできます。
もう一つは、現地に入れ込みすぎて、判断にバイアスがかかってしまうパターン。現地マネジメントはよくやってくれている、優秀だから間違いないと安易に結論付けてしまいがちです。
システムを通してこうしたバイアスを排除することで、誰の目にも明らかな客観的な事実をつかめるようになります。
会計不正を後から検証すると、たいていはおかしいと感じていた人が何人もいるものです。ところが先のようなバイアスがじゃましたり、誰かが「問題ない」と言っているから大丈夫だろうと思って見過ごされるケースが多い。
しかし、数字を積み重ねれば、事実と向き合わざるをえなくなります。たとえ単年度ではわからなくても、時系列で見れば、おかしな点は必ず浮かび上がる。思い込みの罠を防ぐうえで、データは極めて有効です。