DXを推進するための
リーダーシップ

 DXは、文字通り「変革」です。その時に求められるリーダーシップは、通常のそれとは異なるはずですが、どうあるべきでしょう。

藤井:会社の業種や規模、歴史や文化などによって変わってくるでしょうから、一概に「こうあるべきだ」とは言えません。

 私もよく参考にしているのですが、INSEAD教授のエリン・メイヤー氏が開発した、組織構造と意思決定スタイルから「リーダーシップカルチャー」を類型化するマトリックスは、変革のリーダーシップを考えるうえでヒントを与えてくれるかもしれません。

 これは、縦軸に「トップダウンか、コンセンサス重視か」という意思決定スタイル、横軸に「階層型か、フラット型か」という組織構造の2軸から成っています。

 それによると、アメリカは「トップダウンでフラット」、中国は「トップダウンで階層的」、日本は「コンセンサス重視で階層的」となります。ちなみに、幸福度やジェンダーレスで高い評価を得ている北欧諸国は「コンセンサス重視でフラット」だそうです。

 いずれも一長一短あると思いますが、DXに取り組む際には、海外の成功事例をそのまま真似るのでなく、日本企業固有の組織文化や特性を踏まえたリーダーシップが効果的ではないでしょうか。

森川:DXを推進する部門には、言わば「海兵隊のような機動力」が求められるのではないでしょうか。つまり変革というリスクの高いチャレンジにも、フットワーク軽く、臨機応変に行動できる能力です。経営陣は、DXチームがそのように動けるように支援・庇護してあげなければいけません。

 加えて、DXチームには「人間力」が求められます。デジタル化が進めば進むほど、人間力というアナログの力が重要になる。特に会社の境界を超えて共創し、何か新しいものを生み出すには、対等で水平的な関係が欠かせません。大企業だから、サービスを受ける側だからといった上から目線や態度は御法度です。

藤井:価値観やバックグラウンドの異なる人たちが集まり、互いに尊重し、協力して、新たな価値を創造することが、多くの日本企業に求められています。その際、互いに対等な立場、同じ目線で取り組むことが重要ですが、そのためには、円滑で建設的なコミュニケーションが不可欠であり、そうした環境を整えるのもリーダーの仕事です。

森川:もう一つ、課題の多くは現場にあるわけですが、その解決には「カタリスト」という役割が必要です。具体的には、他部門との仲介や調整、社外のパートナーの探索や調整、社内外のリソースのマッチング、第三者の視点からのアドバイスなどを通じて、顧客価値を生み出し、ビジネスを創出する存在です。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)と東京工業大学を比較すると、学部生、大学院生、教授の数は大差がありません。しかし、スタッフの数がまったく違うのです。MITは約1万人抱えており、まさにカタリストの役割を果たしています。教授たちが発見・開発した知見や技術、人脈などを巧みに組み合わせ、新しい価値へと落とし込んでいます。

 また、カタリストの役割を担うのは、人や組織に限りません。いろいろな人々が集まって議論したり、協働したりできる、そう、御社のKDDI DIGITAL GATEのような「場」でもいいのです。

藤井:我々も、さまざまなDXプロジェクトに取り組んできましたが、その中で得られた知見の一つに、事業や業務に関する理解と技術に関する理解の両方が要求される、というものがあります。ですが、多くの日本企業では、どちらかに偏っており、両方を理解しているところは少ない。ここを補うのが、ご指摘のカタリストかもしれません。

 手前味噌になりますが、我々には、その役割を果たしうる「KDDI本業貢献チーム」をはじめ、スタートアップと大企業をつなぐ「KDDI∞(ムゲン)Labo」、DXやアジャイル企画開発を一緒に推進する「KDDI DIGITAL GATE」といった共創の場があります。