リモハラが増える
2つの原因

 翌日、甲社に来訪したE社労士に、D総務部長はA子とB課長に関する事情を説明した。E社労士は、一通りの話を聞き終えると言った。

「B課長のしていることは、最近話題になっているリモートハラスメントですね」

「リモートハラスメント?聞きなれない言葉ですがどういう意味ですか?」

「在宅勤務中に受けるハラスメント全般のことを言います。特に上司から部下に対するパワハラとセクハラの被害が多いですね。」

「オンラインでハラスメントなんて考えたこともありませんでした。どうしてそんなことが起きるのですか?」

「原因の1つ目はオンライン会議の際、カメラを通して相手の私生活が見えてしまうことです。仕事場と自宅の境界線が曖昧になり、感情的にも公私混同に陥ってしまう場合があります。2つ目はオンラインゆえにコミュニケーションがうまく取れないことです。その結果、過剰な監視や過剰なオンライン飲み会の開催につながるのです。B課長はまさにそのタイプですね」

「なるほど。ところでA子さんとB課長の件ですが、会社の対応としてどうしたらいいのでしょうか?」

「まずは、直ちに総務1課全員に対して、B課長からハラスメントを受けたかどうか、および、受けた人からはその内容について調査をしてください」

 E社労士はさらに続けた。

「それとB課長からセクハラ被害を受けたA子さんへのフォローも同時に行ってください」

「わかりました。B課長への事情聴取も必要ですね」

「はい。この件は被害者の訴えだけではなく、加害者とみられる相手や課員の調査結果と合わせて公平に判断する必要があります」

「その後についてはどうなりますか?」

 E社労士はD総務部長に次のようなアドバイスを行った。

○ 調査、面談などの結果、B課長に対して懲戒処分、配置転換、厳重注意などを行う場合、処遇は社内で検討すること。
○ B課長を含む管理職全員にハラスメント研修を受けてもらうこと。
○ テレワークに関する就業規則等を策定し、従業員に周知、徹底すること。

 D総務部長は翌日、A子とB課長、C子主任を除く総務1課全員に「B課長から受けたハラスメントに関する質問票」をメールで送信した。

 後日回収した結果は、B課長に対する不満のオンパレードだった。

「監視が厳しくて業務中トイレにも行けない」「度重なる報告義務がウザイ」「夜中まで強制のオンライン飲み会への参加が嫌だった」等々。

 さらに、A子ほどではないものの、セクハラまがいの言動受けていた女性社員が3名いたこともわかった。

 A子は病院へ行ったが体に悪い箇所はなく、「軽度のうつ症状」との所見でしばらく通院して様子をみることになった。

 その後、B課長とのオンライン接触がなくなったので症状は快方に向かい、会社を退職せずに現在の業務を続けることになった。

 A子の様子をみた父親は安心し「会社を訴えることはしない」と、A子を通じて知らせてきた。