アプリ対応で国のテクノロジー活用の
課題があらわに

 接触確認アプリには、感染の可能性が高い人に検査や行動自粛を促すことにより、感染拡大を阻止するという大きな目的があります。私は、このアプリの成否には、対コロナというだけでなく、日本社会のITへの信頼が懸かっていると感じていました。

 うまくいけば、スマホなど最新テクノロジーの重要性が国民に身近に認識され、政府や行政機関への評価・信頼も高まっていたでしょう。日本のIT活用は一足飛びに進み、「リープフロッグ」型の発展を遂げるかもしれない、という重要な局面でした。

 実際に、日本における接触確認アプリの開発・公開は、セキュリティとプライバシーに配慮したアップル/グーグルのAPIを利用したものとしては、他国と比べてもスピード感のある対応であり、オープンソース、シビックテックの活用という点でも画期的だったと思います。

 しかし、アプリ公開初動時の政府・厚労省の対応を見ていると、国のテクノロジー活用の課題があらわになったという気がしています。これは国だけの問題ではなく、IT後進国と呼ばれている日本社会共通の課題といえるでしょう。

 また、接触確認アプリだけでは新型コロナウイルスの問題を解決することはできません。疫学上対象となるリスクにさらされた状態を「曝露 」といいますが、アプリではインストールされたスマホが1メートル以内に15分接近していた場合をリスクの対象としているのみ。飛沫感染以外の、物を介した感染などの疫学上のリスクは考慮されていません。つまり、「曝露通知」という目的をアプリ単体では果たすことができないですし、そのほかにも医療体制の確立や、ワクチン開発、新しい生活様式の実践など、ほかにも同時に考えるべき点が数多くあるからです。

 日本は、国として「○年後、日本、そして世界をどのような状態にしたいか」をビジョンとして打ち出し、そのために、どのようなことをするかを網羅的に考えなければなりません。接触確認アプリの使命(ミッション)はそのうちのごく一部で、その他のミッションも同時に進める必要があります。

接触確認アプリのビジョンとミッション(C)及川卓也 2020 禁無断転載
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 これらのミッションを進めていく中で、ITを活用できる場面はアプリ以外にもたくさんあります。日本社会全体でも、コロナ禍を機に技術活用への動きは活発になっています。どのような技術がどこで採用されるかはともかく、今、感染症対策で日本が必要としているのは、デジタルデータの活用です。

 これまで日本はデータ活用ではかなり出遅れていたのですが、新型コロナの脅威をきっかけにハンコ廃止の動きなども出ています。今までにやっておくべきだったということは言えますが、かつてないスピードで解決が図られていることは良いことだし、期待できる点も大きいと思います。

(クライスアンドカンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)