接触確認アプリ浸透のカギは
「IT受容性」「信頼性」「利他主義」

 前述したように、接触確認アプリは「出せば終わり(政府に納品したら終わり) 」の今までのIT調達とは異なり、プロダクトを「育てていく」発想がとても大切になります。ユーザー体験を追求し、使い続けてもらうことや、正しい使い方をしてもらうことが大事です。またアプリ単体としてのユーザー体験を向上させることに加えて、その前後のユーザー行動も合わせて初めて、このアプリは意味を持ちます。

 そもそも接触確認アプリは、自分が感染しないためのアプリではなく、感染の可能性があるときにそれを広げないようにするアプリですが、その目的がユーザーに正しく理解されているでしょうか。また、繰り返しになりますが、このアプリで政府や厚労省が感染者のデータを集めることはありませんし、アップルやグーグルが感染者を把握することもありません。そのことを正しく認識している人はどれぐらいいるでしょうか。

 接触確認アプリ利用促進のカギは3つあると、私は考えています。1つはITへの社会受容性。日本ではテクノロジーに対して快く思わない人が多く、かつITを使いこなすためのリテラシーも高いとはいえないのが現状です。フィーチャーフォン、いわゆるガラケーではこのアプリに対応していませんし、スマホでもある程度新しい機種で、最新のOSにアップデートする必要があるのですが、新しいものを取り入れて使いこなす受容性が低いことは、懸念点となります。

 2つめは先にも述べた、アプリやアプリ運用者への信頼。このアプリがより多くの人にインストールされ、正しく使われるためには、政府や厚労省をはじめとする運用者がアプリの目的を明確に示し、ユーザーに信頼されていなければなりません。そして3つめは、利他主義的な考え方を日本人がどれだけ持っているかという点です。

 感染症には「みんなが自分さえ良ければいいという考えでは、全員が幸せになれない」という特性があります。新型コロナウイルスは、人類の幸せとは何かを我々に哲学的に突きつけたようなものです。「マスクをしても自分への感染を防止できるわけではない」ということではなく、「自分が感染者だったときに他人に感染を広めないために何が効果的か」を考えるというのが基本になります。みんなが利他主義をどれだけ持っているかが、新型コロナを封じ込められるかどうかのカギとなるのです。

 接触確認アプリをインストールしても、ほとんどの人に通知など来ないでしょう。しかし通知が来た後に、どう行動するか、というところまでがアプリの役割です。アプリの目的を理解して、アプリを信頼した上で、強制でなく、社会のために、ほかに感染を広げないために何をすべきか、という気持ちを持てるかどうかも、利用促進には大切なポイントになってくると思います。