どうしても、江川さんと一緒に話し合えるエース級の取材記者がほしい。私や編集幹部の頭に浮かんだのは、島田真くん(後に週刊文春編集長、月刊文春編集長。現ノンフィクション編集局局長)の顔でした。しかし実は、彼は前日に新婚旅行に出発したばかりです。

 もちろん、宿泊するホテルも何も聞いていません。わかっていたのは、行き先がシンガポールというだけです。編集幹部で話し合いましたが、島田くんしかいないというのが結論でした。私はシンガポール中のホテルに電話をしました。そして、運よく(?)島田くんが電話に出ました。「島田、悪い。何も聞かないで日本に帰ってきてくれ。お前しかできない重大事件だ」。彼は何も言わずに帰ってきてくれました。彼だけでなく奥様にも、今でも申し訳ないと思っています。

「犯人かもしれない男」を
取材する難しさ

 奥様も文春に勤めていて、編集経験があったからこそこれを許してくれたのでしょう。

 島田くんが戻ってくるまでの間も、証言を聞き続けました。男が報道されていない事実をいくつか知っていたということが、文春チームも江川さんも「真犯人では?」と信じる理由でした。

 たとえば、拉致をしたとき振り向いたら坂本家に電気がついていたというのですが、電気がついていた部屋の位置はメディアでは発表されていないのに、男はリアルに覚えています。

 もっとも、誰に頼まれ何のために実行したか、といった話がどうもあやふやです。ヤクザだというのですが、それまでの活動、友人のことなど、人生すべてを語り尽くさせ、その裏をとるしかない。編集部はそう判断しました。