テクノロジーの理解が
経営層にも必要不可欠
日本企業ではシニア経営層になるほど、勉強する時間が少なくなるといわれます。知識が経済活動やイノベーションの源泉である社会にあって、世界中のテクノロジーに目を配ったり、「幅広い視点」を身につけ、日々自己研鑽したりするために、KPMGのシニアパートナーたちはどのようなトレーニングを受けているのでしょうか。
いずれの企業も組織も破壊的な変革(ディスラプション)に直面しています。それをもたらしているのがテクノロジー、ITの進化です。かつては「人材+知識」、すなわち人材に知識を与えるだけで十分でしたが、現在は「人材+知識+テクノロジー」が必要です。
KPMG自身、AIやロボットなどの最新のテクノロジーを理解し、ビジネスに組み込み、顧客へのソリューション提供に活用していくために、私を含めトップからボトムまで、デジタルリテラシーを日々涵養していく機会を設けています。
クライアント自身が豊富で高レベルな知識を持っているので、それを超える知識を身につけるため、さまざまな研修制度を設けています。講義型のプログラムやOJTのほか、メンターをつけて、リーダーシップやチームワークなどのソフトスキルを身につけてもらう仕組みもあります。
さらに、トップレベルのパートナーには、「チェアマンズ75」という特別な育成プログラムを実施しています。これは世界中から将来のリーダー候補75人を集め、KPMGが直面している課題を理解し、それを乗り越えるためのソリューションを協働で開発していくプログラムです。
不確実性が高まり、グローバル化が進んでいるフィールドの中で競争していくために、CEOに問われる資質とは何でしょう。
世界には200超の国があり、文化もさまざまで、100年を超える歴史を持つ企業もあれば、創業から12カ月に満たない新しい企業もあり、成熟度はまちまちです。
こうした多種多様な世界において、一つのソリューションですべての問題を解決することは難しいということをしっかり認識したうえで、人の話をよく聞くことができることが重要な資質だと思います。そして、最もプライオリティの高いものは何かを示せること。それを世界中で一貫性のある形で実行に移せることが大事です。
もう一つ、私たちは「エモーショナル・インテリジェンス」と呼んでいますが、感情的に知的であること。つまり、人の感情に寄り添うことができる人であることも、CEOにとって重要な資質です。
多様な人々と社会を相手にするわけですから、トップダウンで命令しても物事は動きません。みんながやる気を持って、積極的に関わってもらい、プライオリティの高い項目を、一貫性のある形で実行に移すためには、組織のトップがメンバーの感情に敏感であるべきだと思います。
日本の産業界では、CEO経験者たち、具体的には相談役や会長のガバナンスやサクセッション(後継者育成)への関与が問題視されていますが、一方で、コーポレートガバナンスのあり方が、アメリカ型に傾倒していくことにも強い警戒感があります。これについて、どのようにお考えですか。
世界にはさまざまなガバナンスモデルがあってしかるべきだと思います。アメリカ型といえば、たとえばチェアマンCEO(取締役会議長兼最高経営責任者)というモデルがありますが、ほかの国ではあまり見かけません。スーパーバイザリーボード(監督委員会)やマネジメントボード(執行委員会)といったガバナンスのアプローチを採っている国もありますから、どれか一つのモデルが世界中で押し広められるべきだとは私は思いません。
むしろ我々が重視すべきは、必要な幅広い知識、洞察をトップが得られているかどうかです。つまり、取締役会がCEOにとって有益なアドバイスや専門知識を得られる会議体になっているかどうかが大切だということです。取締役会での議論を通じてCEOはうまく経営の舵取りをできているかどうか、会社をより成長させるためのチャンスを生み出しているかどうか、そういう視点のほうが重要だと思います。