生き残りを賭けた競争の中で
醸成される「幅広い視点」
日本企業にとって不可避な課題が「経営のグローバル化」であり、それに伴う「経営人材のグローバル化」です。いずれも、やるべきことはわかっているにもかかわらず、なかなか前に進みません。KPMGというグローバルファームを率いる立場からご覧になって、どのような取り組みや経験が、グローバル化を加速させるとお考えですか。
今後、グローバル化の流れは、加速度が増すことはあれ、減速することはありません。ですから、国内市場に留まらず、海外市場にも出ていきたいと考える企業は、グローバルな環境で競争相手に伍していくために「幅広い視点」を経営陣が持つことがまず必要です。
過去において、グローバルで幅広い視点を経営陣が持つことは、「そうであればいい」という理想論でした。しかし、現在はできるだけ「幅広い視点」を持つことが経営陣にとって必要不可欠な条件となっています。
では、どうやって「幅広い視点」を獲得していくか。これは単に経営者養成プログラムを導入してもダメで、目まぐるしく変化する環境の中で、生き残りを賭けた競争にさらされること、つまり必要に迫られることで初めて醸成されるものだと考えます。
「幅広い視点」とは、たとえば、日本だけでなく世界中にどのようなテクノロジーがあるのかを理解していることが挙げられます。伝統的なモノづくり企業がグローバルな競争力を維持していくには、自分たちのサービスやソリューション、製造プロセスに、どのテクノロジーを取り入れれば付加価値を高めることができるのかを見極める知見が必要であり、そうした知見がなければグローバル市場で生き残っていくことは難しいでしょう。
テクノロジーの進化が激しい現在は、一国だけ、一つの業界の中だけ、あるいは一社単独でできることには限りがあります。こうした環境の中であらゆるテクノロジーに目配りしていくには、複数の企業がパートナーシップを組んで、専門知識を結集し、一つのソリューションを生み出していくことが重要です。いわゆるオープンイノベーションによって、それぞれの会社が持っている力を統合することで、一社で取り組むよりも大きな成果を生み出すことが可能になります。
日本でもオープンイノベーションの必要性が叫ばれており、業界を超えた協業が進められていますが、具体的な成果はあまり出てきていません。オープンイノベーションを活性化させるには何が必要でしょうか。
幸いなことに、我々KPMGはクライアントの抱えている問題を解決するお手伝いを通じて、何らかの形でイノベーションを後押しする機会を得ています。一方、国のレベルでのイノベーション活性化を考えた場合には、ほかの組織とのコラボレーションは避けては通れない道だと考えます。
今後は一社単独で連続的にイノベーションを起こしていくというケースはどんどん少なくなっていくでしょう。過去に素晴らしい業績を上げた企業と、新興のIT企業が手を組むことが重要であり、それが破壊的テクノロジーの波に対処しつつ、成長を達成するための大きなカギになると思います。
成功事例の一つにイスラエルがあります。イスラエルがフィンテック分野においてイノベーションを加速させているのは、教育に力を入れてきたからです。受けた教育をビジネスにつなげられるよう、国がインセンティブも用意しています。国としてイノベーションを活性化し、コラボレーションを推進するためには、教育以外にも、ビジネスにつなげる財政的支援の枠組みが極めて重要です。