しかし、齢40を目前にして、腰が痛かったり肩が上がりにくくなってきたり腹がたるんできたり、そもそも仕事からしてインドアで絶対的に運動不足で、地下鉄の階段を上りきっただけで膝がガクガク笑い、動悸息切れめまいがして具合が悪くなって座り込むなど、種々の不都合が目立つようになってきた。

 それもロッカーとして美徳のひとつとまだ考えられなくもなかったが、妻の冷たい視線が徐々にいたたまれなくなってきていた。妻は健康マニアではないが、「人並みに健康である努力はするべきだ」という考えの持ち主であり、話題が健康のことになると「娘のためにも人間ドックにちゃんと行ってください」と主張する妻と、のらりくらりと行こうとしない筆者の間で毎回不穏な空気が流れる。人間ドックに行かないのは、もはやロッカーの矜持というか、ただ面倒なだけで、それくらいの矜持だから妻の冷たい視線に打ち勝つほどの強さしぶとさは持ち合わせていない。

 その妻が「『リングフィット』の抽選に当たった」と言う。いつの間にそんな抽選に応募していたのか知らなかったが、そのうち我が家にあの話題の『リングフィット』が来るらしい。ならば筆者も妻に便乗してプレイしてみようか、それが妻へのご機嫌取りになるのではないか、と考えた。

 何より大きかったのは、だらしなくなってきていた腹が許せなかったことである。20代でほとんど無職だった頃、毎日プールで1km泳ぐという謎の時期を過ごしていたことがあって、あれが我が肉体の栄華なりし頃であった。バンドマン時代は上半身裸でステージ上を暴れ回るようなパフォーマンスをしていて、見せる必要があったので少し体を作り、家で腹筋を20回やると腹にはシックスパックじみたものが浮き出てきていた。

 しかし今、この腹は謎の肉に包まれている。だらしない腹は筆者に「お前は漫然として40の大台を迎え、これからもどんどん腹をたるませていくのだな」と突き付けてきているかのようであった。これをあわよくば『リングフィット』で戒める算段である。

励ましてくれる存在のありがたさと
フィットスキルを集める楽しみ

 かくして『リングフィット』を始めたわけだが、ゲームに登場するボスはうわさ通り強く、地獄であり、翌日筋肉痛で日常生活に支障をきたすほどであった。

『リングフィット』は、ニンテンドースイッチのJoy-Con(2つに分かれたタイプのコントローラー)を専用のリングコンとレッグバンドに装着する。レッグバンドはただ脚に巻くだけのバンドだが、リングコンは弾力性のある直径30cm強の輪っかで、これを押したり引いたり振り回したりしてゲームが進行していく。

 ゲームモードはいくつかあるが、筆者はメインコンテンツと思われる“アドベンチャー”を主にプレイしていて、現在プレイ開始から50日目くらいを迎えている。アドベンチャーモードはマップがあって、敵を倒すとレベルが上がって、貯めたお金で装備を整えて…と、やることは一般的なRPGとほぼ変わらないが、その過程が全部フィットネスで行われる。

 たとえば、ひとつのステージに入ると、プレイヤーはゴールを目指すためジョギングして進まなければならない。その場で足踏みするだけなのだが、しかるべき速度で走るためにやるとこれが結構しんどく(足音を立てたくない人などに向けたサイレントモードなるものもあるらしい)、ゴールする頃には動きたくなくなっているくらい疲れている(妻はジョギングを終えても元気そうなのでこれは筆者だけかもしれない)。