特効薬(2) 俺が教えたほうが早い

 自分が持っている技術は、惜しみなく人に伝えるべきだ。「俺がやったほうが早い」は何かしらのコツなりテクニックの結果としての話だ。「俺のように早くできる」勘所を見極め、それを周囲のメンバーに伝えると、「俺がやったほうが早い」程度が弱まっていく。

 よく「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」という話があるが、それと似ている。仕事の進め方をメンバーに見せると、周囲に自分の能力がインストールされていく。

 アプレッソ創業初期は、社内にプログラマーと呼べる人がほとんどいなかったので、このやり方でプログラマーを次々と育成していった。ある程度のレベルまでたどり着いた人がまた次の世代に自分の技術を伝える。これを繰り返していくと、時間を経るにつれてどんどんチームが強くなっていく。

 仕事の能力のうち、移植できるものはどんどん他の人に手渡すべきだ。ノウハウを明かさないことで「自分の居場所」を作る人もいるが、会社全体のパフォーマンスという視座から考えれば、非常に近視眼的だ。その態度はいかがなものかと映るケースが少なからずある。知識の囲い込みを続けた結果、会社全体の競争力が低下し、会社という船そのものが沈没してしまったら元も子もない。

特効薬(3) 俺が見本を見せたほうが早い

 刺激を受けることで一気に成長するタイプの人もいる。エンジニアのSさんがそうだった。

 Sさんにお願いした仕事が1ヵ月くらい経ってもあまり進んでいないようだったので、「どんな感じ?」と聞いてみたところ「簡単にはいきません」と言う。

 そこで「シンプルに考えれば1時間くらいでできるのでは?」とコメントすると、彼は「1時間なんて無理ですよ。そんなこと言うならやってみてください」と怒りながら言い返してきた。「俺がやったほうが早い」実例を見せるべく、私は30分くらいで終わらせた。

「俺が最強」と内心思っていたSさんは、その後「クソ、悔しい!」と言いながらメキメキ成長していった。ただしこの方法は、相手の性格やタイミングに気をつけて使わないと逆効果なので、上級者向けのテクニックと言える。