中原 導入のきっかけは何だったのですか?
有沢 私が8年半前にカゴメに来たとき、人事異動や昇格のプランは事業部ごとに作っていて、人事部は基本的にそれをまとめるだけのオペレーションを行っていました。事業部人事という点では、以前のほうがずっと先鋭的だったのです。
ただ、問題も多かった。ひとつには、事業部ごとに人事が決められていたため、経営的な視点が乏しく、事業部門の利益を第一に追求する状態になっていたことです。また、横の展開がほとんどなく、そのため部門を超えた人事異動はほとんどありませんでした。要するに、営業部門なら営業部門で、生産部門なら生産部門で、それぞれに専門性を積み上げてスペシャリストを育成することはできていましたが、事業部を超えてゼネラリストを育成するという発想が社内にはほとんどなかった。そんな状況を変えるために、HRBPを導入したのです。
中原 なるほど。有沢さんがおっしゃるHRBPは、これとは違うというわけですね。事業部門のことだけを考え、利益誘導を行ったりする事業部人事が、目指すものではない。
有沢 そうです。当社では必ずしも事業部人事イコールHRBPではありません。HRBPは、もちろん自分が担当する事業部門の社員たちを見るのですが、一方で経営陣やほかのHRBPと情報共有をして、部門をまたいだ異動をさせるなど横展開の人事も話し合ったりしています。大事なことは、HRBPは担当する事業部門の利益代表ではない、ということです。
中原 HRBPの所属はそれぞれの事業部ではなく、人事部ということでしょうか?
有沢 CHO(最高人事責任者)である私の下についてもらい、職位的には人事部長と同格にしています。それぞれの事業部門からは切り離し、事業部門長の指揮管理系統には入っていません。
中原 とすると、HRBPの方は、特定の事業部門を担当し、部門長などの意見や要望は聞くけれども、スタンスはあくまで経営寄りで、経営の視点から事業部を見ていくということですか?
有沢 基本的にはそうですが、経営側に寄りすぎるのもデメリットがあります。人事担当役員や人事部長から「ああしろ」「こうしろ」と指示を受けたものの、事業部門長からは「できない」と言われてしまい、板挟みになってしまうHRBPを、私はこれまで他社でたくさん見てきました。そうした状況に陥ると、HRBPは委縮してしまい、自分の考えで思い切ったことができなくなり、単なる「御用聞き」になってしまいます。
ですので、私がいつも強調しているのは、経営か現場かのどちらかに寄るという考え方ではなく、「経営と現場とのブリッジ」になることがHRBPの役割だということです。