現場の責任者は、
「孤独」な戦いを強いられる

 ただ、紛れもなく、非はこちらにあります。

 在庫管理が全くなっていないのは事実。そして、会社としては、現場に在庫管理の適正化を求めるのは当然のこと。なんとかしなければならない。あのとき、私は孤独でした。本社スタッフからは罵倒されるだけ。そして、私の指示に従ってがんばってきてくれたクーリーたちは、このような事態を招いた責任者である私に対して強い反発心をもっていることは明らかでした。

 しかも、クーリーたちに、在庫管理の重要性を説明してもほとんど意味がありません。「会社のことなんて知ったことか。指示された仕事をするのが、俺たちの仕事だ」というのが彼らの論理なのです。

 それに、彼らに在庫管理のアイデアを求めても仕方がありません。だから、すべての責任は私ひとりにある。責任者である私が、適正な在庫管理ができる「仕組み」をつくって、彼らの協力を得ながら、できるだけ早く「成功」してみせる以外に道はない。孤独ではありましたが、それ以外に道はなかったのです。

 どうすればよいか?

 私は、二つの「仕組み」を考えました。まず人員の増強です。これまでの現場の主役はクーリーたち。事務作業を得意とするスタッフ職の人数は絞っていました。そのため、クーリーたちに、タイヤの搬入・搬出、倉庫内での積み上げ・積み下ろしなどの肉体作業に加えて、彼らが苦手とする伝票と現品の照合作業までもやってもらっていました。この仕組みを変えなければ、状況を改善するのは不可能だと考えました。

 そこで、本社に頭を下げて、スタッフ職の人員増を依頼。しかし、スタッフ職の数は厳しく管理されていますから、簡単にはOKが出ません。「なぜ、自分がこんなに頭を下げなきゃいけないんだ」という気持ちを抑えつけながら、現場の状況を必死で訴え続け、ようやくのことで、不十分ではありながらも、スタッフ職の補充を認めてもらうことができました。

 そして、クーリーたちには、得意な肉体作業に専念してもらい、スタッフ職が伝票と現品との照合などの事務作業を厳密に行う仕組みに移行しました。しかも、チーム制を採用して、ダブルチェック、トリプルチェックを行うことで、在庫管理の高度化を図ったのです。

「力」で現場は動かない、
現場を動かす「仕組み」が必要だ

 さらに、もうひとつの「仕組み」を加えました。

 毎日、終業後に、私を含むメンバー全員で棚卸しをやるのです。

 クーリーたちからは悪評ふんぷん。それはそうです。1日の労働で疲れ切っているのに、在庫台帳と現品が合っているかを全数チェックするのですから……。在庫台帳と在庫が合わなければ数え直し。数が合うか、数が合わない理由が明確になるまで、帰宅させません。「スタッフ職が厳密にチェックしているのだから、こんな面倒なことする必要はないだろう」と彼らが不満をもつのも仕方のないことではありました。

 しかし、私は「やってくれ」と譲りませんでした。

 なぜなら、スタッフ職の増強によって、日常業務の仕組みを変えたことが、本当に有効であることを、できるだけ早く証明したかったからです。実際に、終業後に棚卸しをすると、ほぼ数字は合っています。「事実」は強い。自分たちの仕事がよい方向に向かっていることを実感したクーリーたちは、徐々にやる気を回復して、張り切って仕事をしてくれるようになっていきました。

 しかも、毎日、棚卸しをしているのですから、期末の棚卸しでも間違いなく数字は合うはずです。私にとっても、クーリーたちにとっても、次の期末棚卸しは、屈辱を晴らすために、絶対に勝たなければならない勝負でした。だから、私は、必勝の作戦を取ったわけです。

 そして、数ヵ月後――。

 期末棚卸しのために、例の本社管理担当のスタッフがやってきました。

 白い手袋をはめてチェックを開始。私たちは、「どうだ、完璧だろう?」「驚くなよ」という気持ちで、その一挙手一投足を見つめていました。すると、徐々に、彼らの表情が変わっていくのがわかりました。前回とあまりに違う管理精度に驚いているのは明らかでした。

 結果は、完全勝利。「在庫差異僅少」との評価でした。しかも、「差異理由」も、私たちは明確に説明することができましたから、難癖をつける隙も与えませんでした。前回、私たちを罵倒した本社スタッフは、神妙な面持ちで「格段によくなった」と褒めざるをえなかったのです。