本社の「要求」を押し付けると、
組織は脆弱になる
「ようやくあいつらの鼻を明かしてやったな!」
本社スタッフを送り出すと、私たちは大盛り上がり。
その夜は、倉庫に丸テーブルをセットして、急ごしらえの宴会を開きました。薄暗い数個の裸電球の光のなか、仕出しの中華料理をみんなでつつきながら、かなりクセの強いタイ焼酎「メコン」で乾杯を繰り返しました。
これは楽しかった。
筋骨隆々のクーリーたちが、「お前、気に入ったよ」と言いながら、私と肩を組んでくれるのは嬉しいのですが、酔いも手伝って力がものすごい。首が折れるんじゃないかというほど痛かったことをよく覚えています。
私は、小柄でヒョロヒョロでしたから、まるで巨漢のクーリーたちに小突き回されてるようにしか見えなかったかもしれませんが、私の職業人生において、最も嬉しかった瞬間と言っても過言ではありません。
こうして、みんなの協力のおかげでハッピーエンドに終わったのですが、こうした経験を現場で何度もしてきた私は、本社スタッフの「あり方」については、人一倍考えることが多かったと思います。
本社スタッフは、経営の決定事項や、社内規定の遵守などを現場に求め、その遂行状況をチェックする役割を果たします。だから、先ほどの管理部門の本社スタッフも、単に、自分たちの業務を遂行したにすぎないとも言えるでしょう。
しかし、私たちが日々、真っ黒になりながら夜中まで必死になって働いていたことを知ろうともせず、「在庫管理がなっていない」と罵倒することに意味があるでしょうか?
それは、ただ現場の責任者を孤立させる結果を招くだけではないでしょうか?
そして、経営と現場、本社中枢と現場の間に「不信感」を生み出し、会社組織を脆弱にするだけではないでしょうか?
本社中枢の参謀は、「1円も稼いでいない」と心得る
だから、私は、秘書課長になったときに、現場に何かを要求するときには、まず、現場の話を「聞く」ことを徹底しました。そのうえで、現場に要求することが会社にとっていかに重要なことであるかを、腹の底から理解してもらえるように丁寧に説明。そのうえで、現場がその要求を実現するために、一緒に知恵を絞り、サポートするスタンスを明示するように心がけました。
よく、現場が困っているならば、本社にサポートを依頼すればよいではないかと言う人がいますが、それは現場の気持ちを知らないだけのこと。現場にすれば、本社に何かを求めるのは、非常に心理的ハードルが高いものです。
私も、タイの物流センターの体制強化のために、人員補強を求めるのには非常に苦労しました。あのような思いをさせるのではなく、本社サイドから、そのような提案をしてあげるべきなのです。そのときはじめて、経営と現場の間に「信頼感」が生まれる。組織の根源的なインフラが強化されるのです。
会社を動かし、利益を出しているのは現場です。「1円」たりとも稼いでいない本社は、現場に食べさせてもらっているのです。だから、本社が現場のお手伝いをさせていただくというのが正しい認識。その認識のない人物に、参謀など務まるわけがないのです。私がCEO時代に、本当に優秀だと評価した「本社スタッフ」とは、自分が「1円」も稼いでいないことを知っている人物だったのです。