データの価値を高める
CFO部門の役割

 近年は“新たなオイル”と例えられる「データ」ですが、石油をマネタイズするのとは違い、データの価値化は、誰が、どうやるかで大きく変わってきます。全社から上がってくる情報をタイムリーかつ正確に吸い上げ、経営の意思決定に資するため、三井物産が行っている取り組みと、CFO部門がどのような役割を果たしているのか教えてください。

内田:今年度から新たにDX総合戦略プロジェクトを全社で始動し、DX事業戦略とデータドリブン経営戦略の2つのタスクフォースを走らせています。このうちCFO部門がより深く関わるのが後者です。これまでもデータ活用は進めてきましたが、データの質や量、あるいは分析能力の面で、まだ深掘りできる余地は大きいと思っています。

 データに基づく高度な分析と、機動的な判断や行動を通じて競争力を強化していくために、CFO部門もより主体的にその役割を果たしていくつもりです。一部の事業本部については、関係会社からの月次報告に代わって、ビジネスインテリジェンス・ツール(BIツール)を活用してダッシュボード化することで、関係者間でKPI(重要業績評価指標)を日次または週次でリアルタイムに共有できるようになりました。ビジネス現場のKPIをどう集約して連携するか、それをどのように活用するかが我々CFO部門の知恵の絞りどころで、これまで以上に現場を強力に支援していきたいと考えています。

 非財務情報では、特に人材の部分でデータ活用の可能性を感じています。人と資金を配分するのが経営ですが、資金は比較的目に見えやすいのに対して、人材は難しい。たとえばプロフェッショナル人材の適材適所配置や、投入とリターンの関係など、まだまだ可視化すべき点が残されています。

 丸田さんが言われた通り、専門人材以外の全社員において、ITリテラシーなりデジタルリテラシーを引き上げることも重要でしょう。当社でも研修項目に入れたり、関連資格の取得を推奨したりしています。ある程度わかっていないと手触り感が出ず、テクノロジーのワイズユーザーにはなりえない。ビジネスとデジタルの両方がわかる人材が多いほど、DXは加速していくはずです。

 いまCFOに求められるのは、数字をつくるスコアキーパーの機能だけではありません。CFOの役割、そしてCEOとの関係性をどのように考えていますか。

内田:CFOの役割にはさまざまな要素がありますが、スコアキーパーをしっかりやることがまず大前提です。そのうえで、財務データによる定量的な分析に基づいて事業ポートフォリオを管理し、価値創造に積極的に関与すべきでしょう。当社でも、今年4月にフィナンシャルマネジメント部を強化し、リソース配分についても事業本部と議論を重ねていく体制をつくりました。CEOと並走しながら変革と成長を実現していくことが、CFOとしての私の使命だと考えています。

デジタル監査がもたらす
企業と監査の新たな関係

 監査業務でもデジタルテクノロジーが駆使されるようになっています。デジタル監査はデータドリブン経営をどのようにサポートできるのか、また監査する側とされる側がテクノロジーで連携することで双方にどのようなインパクトをもたらすのか。丸田さんの展望を聞かせてください。

丸田:監査のデジタル化は、3つのCによって急速に進化しています。全取引データを監査対象とするComprehensive audit(網羅的監査)、本社が全データを管理するCentralized audit(一元的監査)、リアルタイムで全社のデータをチェックするContinuous audit(リアルタイム監査)です。ここから社会や企業の期待に応えるインサイト(Insight)を導き出すのが我々の使命であり、あずさ監査法人ではこれを「3C×I」と呼んでいます。3C×Iはデータをフル活用することを前提としていますので、我々のアプローチもまさにデータドリブン監査といえます。

 この3C×Iがもたらす価値・インパクトは、大きく3つあります。1つ目が高度化。統計手法や機械学習の有効活用を通じて付加価値の高い分析が可能となり、監査品質の向上を実現します。2つ目は効率化。主に自動化領域のテクノロジーを活用することにより、単純監査作業の工数や企業の監査対応負担を低減できます。そして企業と監査法人の新しい関係を考えるうえでインパクトが大きいのが、3つ目の見える化(プラットフォーム化)です。グローバルで共通の電子監査プラットフォームを構築し、クライアント企業側でも監査の進捗状況や分析結果を随時見られるようにするものです。これにより問題意識が共有され、必要な場合は素早い対応が取れるようになる。結果、監査の最終段階でのサプライズも防げます。

 こうした取り組みにはクライアント企業との協業が欠かせません。各企業のビジネスやKPIの持ち方に寄り添ったプラットフォームは、まさしくデータドリブン経営に貢献するもので、我々が提供するインサイトを通じてDXの推進と経営の高度化が実現されます。一方で監査法人としては監査の高度化が達成されることで、社会の門番としての責務が果たせる。ウイン・ウインの関係です。

内田:私も、当社が目指すデータドリブン経営とデジタル監査の相乗効果は非常に大きいと思います。デジタル監査の進化を通じて、会計監査の効率性向上はもちろん、内部統制や経営力向上につながる気づきが得られるはずです。すでに我々が行う内部監査についても、今年5月に発表した中期経営計画策定のプロセスで、デジタル監査の手法を早く取り込むよう現場に求めたところです。変革と成長を止めないためにも、社会の要請に応えるうえでも、監査をめぐる新しい共創関係がいち早く築かれることを期待しています。

企画・制作:ダイヤモンドクォータリー編集部