人類欲望史#3Illustration by Yuuki Nara

特集『1万3000年の人類欲望史』(全4回)で2回にわたって続けてきた時空の旅――。その行き着く先は、米IT界の巨人「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)」とドナルド・トランプ米大統領の誕生だった。この特集#3を読めば、企業が超国家的存在といえるまでの力を付け、ポピュリズム(大衆迎合主義)旋風が吹き荒れるようになった理由が、1万3000年という壮大なスケールから見えるようになる。(ダイヤモンド編集部副編集長 鈴木崇久)

>>特集#1『「欲望と空想力」で人類の経済・金融史を切り取ると目からウロコな理由』から読む
>>特集#2『経済成長はかつて大罪だった!宗教改革やルネサンスで革命が起きた理由』から読む

「週刊ダイヤモンド」2019年3月2日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

世界は「戦争の世紀」を経て
自国ファースト反省時代へ

「戦争の世紀」を世界は大いに反省した。多少のエゴの衝突こそあれ、終戦直前から国際社会は協調して強欲の防止装置を用意し始める。

 1945年10月には国際連合が発足。軍事・経済制裁の決定権限を持たせ、平和維持装置とした。

 また、44年7月には米ニューハンプシャー州のブレトンウッズで会議が開かれた。このとき人類は、1万年の時を超えて育んできた空想力を試される。戦後の安定的な通貨制度を構築する上で、国際決済に用いる基軸通貨を何にするかという問いがそれだ。

 当時、米財務次官補だったハリー・ホワイトが自国通貨のドルを提案したのに対して、英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズは「バンコール」という新たな世界共通通貨を提唱した。

「バンコールは蓄蔵も、金との交換もできず、また国際決済同盟における各国勘定の赤字/黒字の双方に利子支払いが発生するため、極端な赤字国・黒字国が発生することなく、均衡のとれた貿易関係が維持されることが期待されました」(『経済史 いまを知り、未来を生きるために』〈小野塚知二著〉)

 これはテクノロジーなど細かい点に目をつぶれば、ビットコインなど仮想通貨の先駆け的存在といえるだろう(現に「バンコール」という仮想通貨が存在する)。

 しかし、軍配はホワイトに上がった。当時はまだ信頼度世界一のドルですら金の価値の裏付けが必要だった時代。ドルと金の交換停止は四半世紀ほど後、71年のニクソンショックまで待つことになる。

 米英の主導権争いの影響だけではなく、金の後ろ盾を持たないバンコールの革新性に人類の空想力は追い付けなかったのだろう。

 こうして、金の裏付けによるドルを基軸通貨とした、米国主導の「ブレトンウッズ体制」が築かれ、戦後の金融と貿易の世界秩序を担うことになった。このとき、国際通貨基金(IMF)と国際復興開発銀行(世界銀行)を創設し、保護貿易に対する反省から世界貿易機関(WTO)の前身である関税貿易一般協定(GATT)も設立した。

 また、戦争でボロボロになった欧州は国家の統合による国際競争力の維持を図り、後の欧州連合(EU)発足へとつながっていく。

 このように、人類が史上最悪の悲劇から得た教訓は国際協調路線の下での平和だった。ただ、最近の米中貿易摩擦をめぐるドナルド・トランプ米大統領の「私はタリフマン(関税の男)」発言や、欧州の反EU勢力の台頭を見るに、人類は1万3000年の欲望の果てにたどり着いた教訓を、70年強で忘れてしまったのかもしれない。