今から1万3000年前――。ホモ・サピエンスを人類唯一の生き残りたらしめた要因は、彼らが持つ「空想力」だった。その空想力は人類を発展に導く革命的なツールを次々と生み出していった。宗教、国家、貨幣、文字……。中でも貨幣は人類史を揺るがす最高傑作。人類の果てなき欲望にとって「最強の増幅装置」の誕生を意味したからだ。「欲望と空想力」で人類の経済・金融史を切り取ると目からウロコが落ちる理由をお伝えしたい。(ダイヤモンド編集部副編集長 鈴木崇久)
「欲望」を羅針盤にして
1万3000年の時空の旅に出よう!
全世界で800万部を突破した人類史のベストセラー『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)によれば、私たちの“兄弟姉妹”だった別の人類が絶滅して地上から姿を消し、私たちホモ・サピエンスが人類唯一の生き残りとなったのが1万3000年前ころだとされている。
本特集ではその1万3000年前まで時間をさかのぼって、そこから現代までの時空の旅にお連れしたい。突拍子もない提案だと思われてしまうかもしれないが、実は1万3000年の人類史に「欲望」というキーワードで軸を通し、経済史と金融史を掛け合わせると、私たちが今どんな時代に生きているのかの見え方がガラリと変わってくるのだ。だから、ぜひこれから始まる1万3000年の旅にお付き合いいただきたい。
なお、人類学ではネアンデルタール人など他の人類と区別するためにホモ・サピエンスを「現生人類」と呼ぶが、今回は他の人類が絶滅した後の世界を旅するので、単に「人類」と呼ばせてもらう。
そして、この時空の旅の羅針盤として採用したいのが先ほどお伝えした「欲望」だ。これまで多くの経済書が人類の欲望を経済成長の原動力として扱ってきた。『経済史 いまを知り、未来を生きるために』(小野塚知二著)でも、「経済を長い期間にわたって量的に拡張させてきた動因として、ヒトとは『際限のない欲望』の備わっている特殊な動物なのだと仮定してみましょう」という仮説から始まる。
そんな人類の欲望の“成果”を端的に表しているのが、世界の経済規模と人口の成長だろう。経済規模は言わずもがなだが、人口も「種の存続」という欲望の表れと見なすことができるからだ。
人類史1万年超で見れば
近年は空前絶後の成長
下図はその二つの推移について、経済規模は約2000年、人口は約1万2000年の時間軸で示したものだ。
どちらも長い低空飛行を経た後、近年になって爆発的な伸びを見せている。そして、このグラフの右端に位置する「今」を生きる私たちは、「成長するのが当たり前」という世界の住人だ。
成長が止まれば世界は破滅するのか――。泳ぎ続けなければ窒息してしまうマグロのような状況に息苦しさを覚える人も増え始め、「経済成長は必要か」という問題意識も多く持たれている。
「そんな問いはナンセンスだ」と切って捨てる人もいるだろうが、先程の図を見ると、素朴な疑問が湧いてくる。それは、人類史の時間軸で見ると空前絶後といえる近年の成長は、「果たして今後も持続可能なのか」という問いだ。
そして、こんな疑問を持つ人もいるだろう。人口がほとんど成長しなかった1万年以上もの間、人類の欲望は眠り続けていたのか、と。実は、そうではない。この間も人類の欲望は抑圧と解放を繰り返してきたのだ。
そこで、次項からはその人類欲望史1万3000年の変遷を、ひとつなぎの超ロング絵巻を使って一緒にたどっていきたい。人類の欲望は何をきっかけにして抑圧され、解放されてきたのか。その行き着いた先である今とはどんな時代なのか。
少し駆け足になってしまうが、早速時空の旅に出掛けてみよう。