制度の導入は
トップダウンで

HRビジネスパートナーを成功させるための条件とは?中原淳(なかはら・じゅん) 立教大学経営学部教授。立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース主査。立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。博士(人間科学)。1998年東京大学教育学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科で学び、米マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学准教授などを経て現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発を研究している。著書に『組織開発の探究』(共著、HRアワード2019書籍部門・最優秀賞受賞)、『研修開発入門』(共にダイヤモンド社)、『職場学習論』、『経営学習論』(共に東京大学出版会)、『サーベイ・フィードバック入門――「データと対話」で職場を変える技術』(PHP研究所)ほか多数。

中原 HRBPとなったご本人たちも当初は戸惑いがあったのでは? それぞれの事業部門でずっとキャリアを積んでいたのに、いきなり「人事をやれ」と言われたわけですから。

有沢 ええ。3人とも最初は「この年齢で人事に来て、自分は何をやればいいの?」という反応でした。

 けれど、当時の寺田直行社長から直々に、人材育成はこれからのカゴメの最重要課題であること、人事の経験は今後のキャリアパスの中で必ず生きること、などの話をしてもらい、HRBPの役割や重要性について腹落ちしたようです。そのあとの動きは速く、3人ともすぐにキャリアコンサルタントの国家資格を取得し、1人は産業カウンセラーの資格も取りました。

中原 有沢さんからHRBPの3人に対して細かな指示を出したりすることはあるんですか?

有沢 相談を受けることはありますが、基本的には任せています。私としては、彼らの動きを従来の人事の仕組みや常識で縛りたくはなくて、彼らがもともと備えているコミュニケーション能力やキャラクターを大事にしてほしいと考えています。

 カゴメでHRBPを導入するのは初めての試みでしたので、彼ら自身がモデルケースになれるように自由に動いてもらい、何か不都合が生じた場合のみ改善するというスタンスを採っています。とはいえ、3人とも問題解決能力がきわめて高いので、たいていのことは自分たちで判断して解決していますね。

中原 逆に、そんな優秀な方を各部門から人事に引き抜いて、部門から苦情を言われたりはしなかったのですか?

有沢 かなりありましたね。「人事はいったい何を考えているんだ」と。

中原 そうした反発を、どのように説得したのでしょう?

有沢 そこは先ほどの3人の説得と同じで、社長(当時)の寺田に動いてもらいました。HRBPのような新しい人事制度を導入し、全社に浸透させていくには、トップダウンでやっていくことが不可欠です。そのため、HRBPの導入を含めた人事改革は、人事だけの問題ではなく、全社的な経営マターなんだという明確なメッセージを、寺田から全社員に向けて発信してもらいました。そのおかげでスムーズに導入を進めることができたんです。