職場における、「L・G・B」に対しての過剰な反応

 人事担当者が留意すべき3点目が、「当事者を腫れ物扱いしないよう配慮すること」。

 「L・G・B」であることは、職場においては(仕事をするうえにおいては)、重大な問題ではないだろう。非当事者が「そういう人は一般的にいる」と理解しておけばいい。

 ところが、「L・G・B」を公言する人材を会社が初めて受け入れる場合、採用側に経験値の蓄積がないので、ことさら難しく考えてしまったり、大げさに構えてしまう傾向がある。機に乗じて、従業員全員にLGBT研修を受けさせたり、社内規定の福利厚生に関して、配偶者と同性パートナーを同じとみなす対応を拙速に始めるなどだ。

 もちろん、福利厚生面での配慮は悪いことではない。しかし、「同性パートナー」が明確な存在ではなく、事実婚などの「未婚の男女カップル」との差があると「特別扱い」の印象をも与えてしまう。社内規定におけるバランスは十分に考慮したい。

 また、LGBTへの理解促進を促す研修を行い、LGBTフレンドリーな企業であることを必要以上に強調していくことにも慎重になりたい。研修を受けた者が、虹色のアライ(LGBTの理解者)マークのシールや旗をデスク周りに貼ったり飾ったりすることは、カミングアウトを望まない当事者にとっては、ありがた迷惑な行為と感じることもある。

 先述したように、「L・G・B」であること、つまり、個人の性的指向は仕事を進めるにおいてはさほど大きな問題ではなく(もちろん、仕事の業種業態や職場の環境・状況によって差異はある)、カミングアウトせずに働いている当事者も実際はかなり多いのだ。いま現在、何の支障もなく働いているのに、会社がLGBTフレンドリーを標榜し、社内規定をいきなり改定し、カミングアウトを積極推進する姿勢を強めることで、逆に居心地の悪さを感じる当事者が少なからずもいることを念頭におくべきだろう。

 「L・G・B」に対して過剰反応せず、「性的指向は人それぞれ」という認識が社内で徐々に広まりさえすれば、“理解の強制”がなくても、同性愛を冗談のネタにしたり、当たり前のように結婚の話題を当事者に持ちかけることはなくなっていくはずだ。

*次稿、「いま、企業の人事部が知っておくべきLGBTのこと(2)」に続く。

※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「さまざまな障がい者の雇用で、それぞれの企業が得られる強み」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

 

【訂正】 記事初出本文2ページ目第5段落は、企業の人事部が最大配慮すべきは「当事者に不利益を生じさせないこと」という意図でしたが、誤解を招く表現になりました。該当箇所を以下のとおりに加筆修正しました。
 
(初出)
職場でのカミングアウトを認めないトップ(経営者)や役員には、反対する理由を尋ねてみるのがよいだろう。単なる感情論(好き嫌い)や先入観が理由で、当事者を納得させる根拠がなければ、その方針は変更となるかもしれない。一方、検討の結果、「職場でカミングアウトすることは原則的に認めない」のであれば、求人応募者に「会社の方針として(性的指向の)カミングアウトは禁じています。弊社での就労を希望されるなら、カミングアウトはしないでください」と明確に告げるべきだ。曖昧なままで採用に至ると、後々、当事者も会社側も思いがけないトラブルに遭遇しかねない。
 ↓
 (加筆修正)
職場でのカミングアウトを認めないトップ(経営者)や役員には、反対する理由を尋ねてみるのがよいだろう。単なる感情論(好き嫌い)や先入観が理由なら、その方針は変更となるかもしれない。言うまでもなく、カミングアウトを行うか否かは本人意思の尊重が第一であり、「職場でカミングアウトすることは原則的に認めない」はあってはならないことなのだ。何らかの理由で職場環境がカミングアウトに適切でない状況においては、人事担当者は、当事者自身に不利益を生じさせないことを最優先に考え、現時点での社内の理解度の低さ・温度差を率直に伝えておくのも方法のひとつだろう。入社後に当事者の希望する状況と異なっていたら、当事者は大きな失望を覚えるにちがいない。仕事を続けながら人間関係を築いていきカミングアウトしていく場合は、人事担当者は当事者本人の希望とともに出来る限りのサポートをしていく必要がある。
 
(2020年8月24日11時10分 ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」)