2020年5月18日に発表されたソフトバンクグループの決算は大変な注目を集めました。赤字規模の大きさやその独創的なプレゼンテーションの内容が話題を呼びましたが、この決算発表の先に、スタートアップのどのような「質的変化」を読み解くべきか、シニフィアン共同代表の3名がそれぞれの視点から、考えます。
SBGの実態はPLでは語れない
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):5月18日に発表されたソフトバンクグループの決算が注目を集めています。PL上の話ではありますが、連結最終損益が国内で過去最大のマイナス1兆4000億円超ということで、ニュースにもなっています。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):この会社は、投資のインパクトが大きすぎて、正直、この営業利益の数字だけでは実態が把握できないんですよね。
朝倉:孫さんも、PLで判断しても意味がない、投資会社として見て欲しいと説明されています。決算資料にも、積極的に「株主価値」という言葉を折り込んでいますね。
小林:そうですね。今回もPLを見ると、「ビジョンファンドSBF事業」が昨年1兆2566億円の黒字から今年はマイナス1兆9313億円の赤字、すなわち昨年の営業利益に対して3兆円超のマイナスを出しています。PL上、グループ全体にとって、投資のインパクトが大きかったということですね。
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朝倉:はい。今回の決算において、グループ全体の営業利益の増減に大きく影響しているのは、ビジョンファンドであるというのが実態だと思います。
ソフトバンクグループの決算説明資料は非常に独創的であることで有名で、今回も3頭の馬とユニコーンのビジュアルが話題を呼びました。
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朝倉:私が特に気になったのは、むしろ冒頭の部分です。コロナショックによって経済全体が未曾有の危機に陥ることを説明する際、影響を受ける産業として「旅行」「自動車産業」「レストラン」の3業種を例示しています。
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朝倉:これらの産業は典型的なオフライン事業であり、一見すると、ソフトバンクグループが掲げ続けてきた「情報革命」から一番縁遠い産業にも思えます。
自社ミッションから離れたように思える産業を引き合いに出して、「未曾有の危機」を説明していることが何を意味するのか、こうしたオフライン産業への投資を通じて、デジタルトランスフォーメーションを牽引していくという意図などを鑑みると、示唆深い点だと感じます。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):この点、私も孫さんが言うように、ソフトバンクグループを理解するにあたって、PL的見方は適さないと思います。1兆9313億の赤字、というPL上の数字にはほとんど意味が無い。また、「ソフトバンク=ビジョンファンド」という捉え方にも違和感があります。
では、私がどういう視点で同社を捉えているかというと、ビジョンファンドも含め、ソフトバンクグループ全体を、考え抜かれたポートフォリオだと考えています。
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村上:「情報革命」をミッションとして掲げるソフトバンクグループには、eコマース、通信、半導体チップと幅広く情報関連事業があります。これらを俯瞰したときに、ソフトバンクグループが参入しづらい産業・事業が浮かび上がってきます。
それらの領域を、ビジョンファンドが投資によって攻めていく。このような見方をすると、ビジョンファンドは短期的には損を出したが、逆にビジョンファンド以外の領域に関しては堅調だったわけで、グループ全体で見れば、非常によくできたポートフォリオ戦略だと評価することもできます。
個別の出資案件に対してはいくらでも批判ができますが、このグループこそ、全体で捉えなければならない。私は、朝倉さんが言及した情報革命と3つの産業の関連性についても、オフラインとオンラインの融合が進むことを想定して、どの領域を押さえておくべきかという観点から説明がつくと思います。
ソフトバンクグループのポートフォリオから考えると、これらの産業にはビジョンファンドのアプローチが有効に機能し得たはずです。しかし、コロナの影響で、ビジョンファンドの当初の投資戦略に補正の必要が出てきた。そのような文脈の中で、孫さんの、ファンドと本業を使い分けたリスクの張り方をどう評価するかですね。私としてはこのポートフォリオ戦略はまだ崩れていないのではないかと思っています。