ビジョンファンドの現状が示唆する、スタートアップの質的変容
朝倉:今の時点で、ビジョンファンドの成否を総括することはできませんし、ファンドのパフォーマンスをこの時間軸で評価することには無理があります。個別の出資案件をあれこれ評価しても、大して意味をなさないでしょう。
一方で、今回の決算内容やビジョンファンドの現状を踏まえると、スタートアップの成長仮説や投資仮説において、興味深い点も見えてくるのではないかと感じます。
例えばビジョンファンドの現状を、いわば「ユニコーンバブルの崩壊である」として片付けてしまう言説があります。この言説は全くの誤りではないのですが、もう少し具体化して理解するべきでしょう。
今起こっていることは、いわゆる過剰流動性を背景としたユニコーンバブルの崩壊という量的な側面も確かにあるにはあるものの、一方で、スタートアップ投資テーマの質的な変化という側面もあるのではないか、ということです。
過去10年ほどを振り返ると、SNSやスマートフォンといった明快なテーマがありました。こうした環境変化に即して、オンラインを主戦場とした事業が種々台頭した。その結果、5、6年前にはすでに、オンラインで完結したテーマは相当程度が出涸らしたという風潮があったと思います。
近年に急成長した、ユニコーンブームを象徴するような会社を挙げると、Uberであり、Airbnbであるといった、リアルに紐付いた会社群です。WeWorkやOYOも然り。
ビジョンファンドは、ユニコーンが続出している領域・テーマにおける「勝ち馬」にまとまった資金を張っているわけですが、このタイミングに投資対象たり得る、大きく評価されている会社の多くは、先行投資のための巨額の資金を必要とする会社であり、何かしら、オンラインとオフラインの融合・統合をテーマとするスタートアップ群だった。
しかし、コロナ禍によって、オフライン産業に対しては強烈な向かい風が吹いており、ZoomやNetflixのようなオンライン完結型、一度は出尽くしたと思われていた領域がまた注目されている。こうした揺り戻しが一過性のものなのか、もう少しこの傾向が続くのかは判断できません。
ただ、オンラインとオフラインの融合がテクノロジーの世界で非常に重要になっていくと見られていた中にあって、コロナ禍がもたらした影響は相応に大きいんじゃないかと思います。
現在、スタートアップの世界で起こっている風向き・勝ち筋の変化を考える際は、量の面だけでなく質の面でも捉える必要があるのではないかと思いますし、個々人がスタートアップの成功仮説や投資仮説における再認識を迫られているように感じます。