コロナ禍を受けて、スタートアップはどのように競争優位を構築するか

村上:近年、オンラインとオフラインの融合が進んだ背景には、GAFAの存在を受け、Moat(”堀”、競争優位性や参入障壁の意)を築く重要性がより高まってきたことがあります。つまり、オンライン完結でGAFAに対抗できるようなMoatを築くことが難しくなり、よりハードウェアやリアルアセットに注目するような流れがでてきた、ということです。

ここで私が投げかけたいのは、「スタートアップは今後、どうやってMoatを築いていくのか」、という問いです。コロナが変えた後の世界では、オフラインとの融合が競争優位になるのか。

オフラインとの融合を推し進めようとしたときに競争力を持つのは資金力です。孫さんのビジョンファンドは、オフラインとの融合を進めるにあたって、資金の大きさで参入障壁を築くという戦略を取っていたわけですが、この流れがどうなるのか

オフラインとの融合、というトレンドの中で、大型投資・大型ファンドがパワーを持っていた時代が、コロナによってガラリと変わってしまった。もはやオフラインとの融合も、大きな資本力も競争力になり得ないとしたら、今後Moatを築くにあたって、どのような潮流がやってくるのか。仮説としては、よりテクノロジーの差別化を追求するといった流れも出てくるかもしれません。

朝倉:オフライン、あるいはリアルについて語る際、オンラインの情報処理を介してリアルアセットを融通してマネタイズするというビジネスモデルとしての側面だけでなく、データ取得ポイントとしてのリアルも考慮すべきでしょうね。オンラインとの融合によってリアルに存在するデータを取得する流れは、すでに各企業のデータ取得合戦として出現しています。

コロナという外部要因によってオンライン完結型の事業は半ば暴力的に浸透しましたが、だからと言ってこの先、リアルでの人・物の移動が全く無くなるのかと言えば、そんなはずはありませんし、リアルのデータに価値があるということも変わらないでしょう。

小林:オフラインとの融合というテーマは、VCに限らず事業会社、CVCなど、至る所で次の戦略テーマになっていました。

朝倉:「デジタルトランスフォーメーション」、「オープンイノベーション」と呼ばれている試みの多くがこの文脈でしたね。

小林:はい。今、それがコロナの影響で、急激にリモートやオフラインに振れている。例えばエンターテイメントの領域では近年、デジタルより、リアルの興行ビジネスのほうが好調でした。

しかし、例えばゲーム『フォートナイト』上でトラヴィス・スコット(アメリカで活動するラッパー)がバーチャルライブをやったら2700万人が参加した、という例がありました。

コロナ前であれば、ライブがいきなりバーチャルになるとは誰も思っていなかったのに、いきなりオンライン完結の大規模イベントとして成立してしまった。まだまだ先だろうと考えられていたこと、少しずつリアルとオンラインの融合が進んでいくだろうと思われていたものが、一気にオンラインに突き進むという現象が起きるでしょう。

しかし、テーマによっては、一歩ずつデジタルへトランスフォームしていくものもあるでしょう。しばらくはオンラインで完結した事業の急速な進展と、リアルとオンラインの融合の漸進的な進展が併存するのではないかと思っています。

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:正田彩佳 記事協力:ふじねまゆこ)、signifiant style 2020/6/7に掲載した内容です。