「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――。
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していく。

スタートアップには、WHYを起点としたWHY-HOW-WHATの対話とシナジーが重要だPhoto: Adobe Stock

MVVを全体感で捉える

 前回説明したゴールデン・サークルでは、「WHYを起点にせよ」と言っている。

 私は、それに異を唱えないが、ことスタートアップにおいては、WHYを起点としたWHY-HOW-WHATの対話とシナジーが重要だと考えている。

 WHYが実現するのは、PMFした(市場で受け入れられた)プロダクト/UX(顧客体験=WHAT)があるからであり、顧客にどのように届けるか/どのように顧客に成功をもたらすか(HOW)も重要になるからだ。

 持続的競合優位性(ディフェンシビリティ)というのは、そういう重要な要素を掛け合わせて、統合することによって強化される。さらにそれが、その企業にとって唯一無二のストーリーを生んでいくのだ。

MVVを全体感で捉える

 改めて、戦略/顧客を含めたMVVの全体感を捉えてみたい。下図を見てほしい。

スタートアップには、WHYを起点としたWHY-HOW-WHATの対話とシナジーが重要だ

 これは、ミッション/ビジョン/バリューと顧客への独自の価値提案/戦略/戦術の関係性を図で表現したものだ。

 スタートアップは、現状(不便や不満の「不」が存在する世界)からビジョン(「不」が解消された世界)を目指していく。その過程で必要になるのが戦略であり、その戦略を施策レベルに落とし込むのが戦術である。それを実行するのはチームであり、チームの行動指針や基本方針を支えるのが価値基準(バリュー)である。

 その営みの全体を支えるのが経営陣(経営者)の思いや、自社の存在意義(ミッション)である。

改めて、ミッション(Mission)/ビジョン(Vision)/バリュー(Value)を定義してみよう。

 ・ミッション(Mission):自社が事業を通じて、社会にどのように貢献するか、社会で実現したいことは何かを示したもの

 ・ビジョン(Vision):自らの意志を投影した未来像のこと。自分たちが心の底から達成したいと願う未来

 ・バリュー(Value):取り組みについての優先すべき価値基準

 前にも述べたが、前提条件として、MVVは、顧客に対する独自の価値提案が実証されていなければ成り立たないということだ。どんなに、心を動かす言葉でMVVを表現できたとしても、スタートアップにとって最も重要なステークホルダーである顧客に対して、その価値が訴求できなければ、意味はない。