創業100年超の老舗もAI活用
試行・検証サイクルのスピードが重要

 コロナ禍でもAIを活用して顧客の変化を捉え、事業に生かしている企業のひとつが、三重県伊勢市で飲食店・小売店などを経営する創業100年を超える老舗の「ゑびや」です。伊勢神宮にほど近い同社の和食レストラン・土産物店も、コロナ禍の影響で観光客が減少しました。しかし、画像分析による店舗周辺の通行量から店の再開時期を決めたり、通行客の特徴を分析することで「週末は若い人が多い」ことを把握して、若者がより好むメニューの開発を行ったりと、データに基づいた予測や施策により事業の継続・展開を図っています。

 リテール事業にAIの力を生かす取り組みの特徴は、次のようにまとめられると思います。ひとつは、昔から試みられていた専門家によるリアル店舗の顧客行動の可視化が、AIの導入により比較的安価に、非専門家でも取り扱えるようになった点。もうひとつは、こうしたテクノロジーがレイアウト変更など店舗の改善だけでなく、新しいプロダクトづくりにも活用できることです。

 たとえばトライアルやゑびやでは、小売業やメーカーなどの他社へ自社で開発したAIソリューションの提供も行っています。またゑびやでは、先に挙げた新しい飲食メニュー開発のほかにも、土産物店でのリモート接客・販売をはじめとしたEC強化の取り組みも始まっているようです。

 誰もが同じ物を求め、大量生産・大量消費が成立していた時代は終わりました。顧客ニーズの多様化はビジネスの不確実性も高まることを意味します。「何を提供すれば喜ばれるか分からない」というこの時代には、製品もサービスも、いったん出してみて反響を見て、テストマーケティングなどの手段を使いながら、検証を早くたくさん行って、改善を重ねていく必要があります。

 検証の場として最近よく利用されているサービスのひとつが、クラウドファンディングです。特にハードウェア系スタートアップでは初期の開発・制作費用の支援をクラウドファンディングのプロジェクトを通じて受けることで、試作と改良のスピードを上げようという取り組みがよく見られます。

 クラウドファンディングのプラットフォームとしては、米国のKickstarter(キックスターター)や日本のMakuake(マクアケ)などが有名です。また、アマゾンもクラウドファンディング発の製品が買える場を提供しています。とはいえ、仮にクラウドファンディングによる資金調達は成功したとしても、実際にプロダクトを市場に出してニーズに沿った改良を重ね、受け入れられるまでには多くのハードルがあります。

 トライアルの場合は、顧客の反響を見ることとテストマーケティングによる改良の両方を一度にできる点が特徴です。トライアルでは、実店舗にリテールAIカメラやデジタルサイネージ、スマートショッピングカートを設置しています。これにより、売り場の状態、購買行動、販促の効果などが可視化され、現場で顧客が何を買うかが分かるため、商品展開をメーカーと一緒に考えることができます。また、メーカーもよりリアルなフィードバックが得られるのです。