「デジタル化の時代」「ソフトウェアの時代」と言われています。変化し続ける時代を生き抜くためには何が必要なのでしょうか。
キーワードは「小さな個が集まって大きな力になる」。かつて大きな力を持っていた「少数の権威」が弱まり、「小さな個」の力が社会を大きく動かすようになったのです。
ITベンチャーの代表を10年以上務め、現在は老舗金融企業のCTOとして企業改革を実行。『その仕事、全部やめてみよう』の著者・小野和俊さんに、「変化の本質」と「持つべき視点」について詳しく聞いてみました。
(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)
インターネットの登場で「何が」変わった?
――『その仕事、全部やめてみよう』は、どんな人に向けて書かれたのでしょうか?
小野 今は「デジタル化の時代」「ソフトウェアの時代」といろいろ言われています。大きな変化が起こっていることは、みな知っていると思うんです。
でも、どんな変化が起こっていて、どう対応すればいいかがわからない人も多い。そんな人に向けて、生々しい事例を紹介しつつ、「こういうふうにやってみることが大事だよ」「こういうふうにやってきました」と伝える本だと、僕は捉えています。
――「どんな変化が起こっているのか」をクリアに言語化できる人はあまりいないと感じます。小野さんはどう感じていますか?
小野 元MITラボの所長だった伊藤穰一さんが「ビフォーインターネット」と「アフターインターネット」という表現をしていて、これは「ビフォークライスト・アフタークライスト」のように、暦が変わってしまうほどインパクトのある変化だと言っているんです。
インターネットが登場することで、IoTがどうのこうのとか、デジタル化が進んだとか、いわゆるテクノロジーの変化はありました。しかし本質的には、もっと源流の部分が変わったと感じています。
――「源流の部分の変化」を具体的に教えてください。
小野 変化は3つあります。
1つ目の大きな変化は「少数の権威の時代」から「無数の個の集まりの時代」に変わったことです。
たとえば「ブリタニカみたいな、百科事典に載っている情報は信頼できる」ってみな思うじゃないですか。これは、百科事典の編集者や専門家たち、いわゆる「少数の権威」に価値があったということ。ミシュランガイドなんかもそうですよね。
でも、インターネットの登場によって、ウィキペデイアのようなものが出てくると「少数の権威」より「無数の個の集まり」が強い影響力を持つようになります。ミシュランも同様で、もちろんミシュランもいいけれど、食べログの評価を見てお店を選ぶ人が増えてくる。
他の事例としては、自然災害が起きたときに大手のメディアでも即座に現地に飛んで写真を撮ることができない場合にも、たまたまその場に居合わせた個人がその場で起きていることを写真に撮ってTweetすることがあります。
そして、それを大手メディアが記事の中で引用させてもらうようなケースも「無数の個の集まり」の力を表す事象の1つと言えると思います。
クレディセゾン常務執行役員CTO
1976年生まれ。小学4年生からプログラミングを開始。1999年、大学卒業後、サン・マイクロシステムズ株式会社に入社。研修後、米国本社にてJavaやXMLでの開発を経験する。2000年にベンチャー企業である株式会社アプレッソの代表取締役に就任。エンジェル投資家から7億円の出資を得て、データ連携ソフト「DataSpider」を開発し、SOFTICより年間最優秀ソフトウェア賞を受賞する。2004年、ITを駆使した独創的なアイデア・技術の育成を目的とした経済産業省のとり組み、「未踏ソフトウェア創造事業」にて「Galapagos」の共同開発者となる。2008年より3年間、九州大学大学院「高度ICTリーダーシップ特論」の非常勤講師を務める。2013年、「DataSpider」の代理店であり、データ連携ソフトを自社に持ちたいと考えていたセゾン情報システムズから資本業務提携の提案を受け、合意する。2015年にセゾン情報システムズの取締役 CTOに就任。当初はベンチャー企業と歴史ある日本企業の文化の違いに戸惑うも、両者のよさを共存させ、互いの長所がもう一方の欠点を補う「バイモーダル戦略」により企業改革を実現。2019年にクレディセゾン取締役CTOとなり、2020年3月より現職。「誰のための仕事かわからない、無駄な仕事」を「誰のどんな喜びに寄与するのかがわかる、意味のある仕事」に転換することをモットーにデジタル改革にとり組んでいる。著書に『その仕事、全部やめてみよう』がある。
「小さな個が集まって大きな力になる」
これはアフターインターネットの本質的なエッセンスだと思っています。