サンダースと組んでいれば
ヒラリー候補は勝てていた?

 前回(16年)の大統領選挙を振り返ると、人気投票で300万票差をつけたヒラリー・クリントン候補が負けた真因は、民主党候補選で敗退したサンダース上院議員と連携できなかったことにあった。

 もちろん、トランプ大統領側の奇跡的な勢いもあったが、冷静に振り返れば、中道のヒラリー・クリントン候補がサンダース上院議員の掲げる民主社会主義を嫌い、手を携えられなかったことが敗因とされている。極端な話、サンダース上院議員を副大統領候補に据えていれば、ヒラリー・クリントン候補は、トランプ大統領に勝てていた、というのが民主党側の選挙対策本部の幹部たちの述懐だ。

 この事実を前提に、改めて今回の大統領選挙を分析すると、どうなるだろうか。

「社会主義」というだけでアレルギーを示す中高年層が多い米国で、民主党は「民主社会主義者」を掲げるサンダース上院議員を大統領候補に選べない。一方、黙って予備選を進めていけば、民主党の中で候補者が固まらず、7月までもつれるのが必至だった。だがそれでは16年の二の舞となり、本選でトランプ大統領に勝つことはできなくなる。

 そこで民主党は、サンダース上院議員との政策協力を前提に、バイデン前副大統領を4月という早い段階で民主党候補に据えた。ところがこの後も、コルテス下院議員などの活躍で民主党内の予備選では中道派が破れ、民主社会主義派が勝つ事態が増えてきた。

 この流れの中でバイデン陣営が掲げ始めたのが、気候変動と経済的不平等の両方に対処することを目的として提唱された経済刺激策「グリーン・ニューディール政策」だった。加えて国民皆保険や州立大学(少なくともコミュニティー・カレッジ)を無料にする政策も掲げた。このための資金捻出は、4兆ドルの増税で賄うとも発表している。

 だが、旧ソ連がそうだったように、共産主義や社会主義は基本的には国際協調できない。計画経済は自国を最優先に考えるから実行できるのであり、他国が必ず自国のために貢献することを前提とする必要がある、という歴史の教訓である。つまり20年の大統領選挙で仮に民主党が勝ち、「バイデン大統領」が誕生すると、トランプ大統領の使ってきた「アメリカ・ファースト」という言葉が使われることはないにしても、実際のところは同じような外交政策や国際経済政策が実施されると考えられている。

バイデン候補に強烈な追い風?民主社会主義が米国人を魅了するワケ本連載の著者、酒井吉廣氏の新刊が発売されました。『NEW RULES――米中新冷戦と日本をめぐる10の予測

 今、米スタンフォード大学などでも、この社会主義の矛盾の話についてのカンファレンスが開催されている。ただ、こうした過去の歴史を訴えても、若者たちがバイデン上院議員や民主党の掲げる民主社会主義を支持する姿勢を変えるのは難しいようだ。

 筆者にとって、民主党のバイデン候補は頭が切れて心根も優しい庶民の味方という印象がある。恐らく、多くの米国人も同じような印象を抱いているはずだ。バイデン候補に認知症の疑惑があろうとも、今の民主党をまとめて大統領となれるのは、彼の人徳があってこそだ。世の中の流れは、強くバイデン候補に追い風となってきた。

 ところがそこで、バイデン候補の息子の不正を暴いたパソコンが突然、出てきて話題になった。また討論会でうまく対応できなかったことを受けて、米国民の興味は再びトランプ大統領へと向かっていった。トランプ大統領の新型コロナウイルス罹患によって開いた支持率の差も、再び縮まってきている。

 筆者が間近で見てきた2000年以降の大統領選挙を振り返っても、これほどの混戦は初めてだ。