バイデン氏もしバイデン氏が米国の次期大統領になったら、一触即発の米中関係はどのように変わるのだろうか
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米国大統領選挙で、ドナルド・トランプ大統領の苦境が深まっている。ジョー・バイデン氏への政権交代は、米国の対中政策にも影響を与えずにはおかない。常に荒波に揉まれ続けるようなトランプ政権下での摩擦とは異なるが、底流としての米国第一主義は変わらない。政権交代で進化する米中摩擦への対応は、同盟国の重い課題になりそうだ。(みずほ総合研究所調査本部 欧米調査部長 安井明彦)

トランプ大統領の対中戦略は
再選戦略と一体化しており五里霧中

 7回と25回。

 この2つの数字は、トランプ氏が7月14日、中国による香港国家安全維持法の制定を受け、香港自治法への署名などの対抗措置を発表した記者会見で、それぞれ「香港」と「バイデン氏」に言及した回数だ。

 香港に関する記者会見であるにもかかわらず、本来は無関係であるはずのバイデン氏への言及が多かったという事実は、トランプ氏の対中政策が再選戦略と一体化している現状を象徴している。記者会見でトランプ氏は、香港情勢への言及もそこそこに、「政治家としてのバイデン氏の経歴は、一貫して中国共産党への恩恵に他ならなかった」と述べるなど、バイデン氏への批判に熱弁を振るった。

 再選戦略との一体化は、米国の対中政策を読み難くしている。バイデン氏と対比する思惑から、選挙戦での苦境が深まるほど、トランプ氏の対中姿勢は強硬になりやすい。その一方で、再選のためには景気の回復が最優先課題であり、米国経済に悪影響を与えるような制裁には踏み込みにくい。香港問題に関しても、トランプ氏は香港ドルと米ドルのペッグ制に打撃を与えるような劇薬には消極的とされる。

 景気を優先し、言葉だけの強硬姿勢に止まるのか。それとも、景気を度外視して、強気の制裁に踏み切るのか。2つの選択肢を天秤にかけるトランプ氏の動向に、世界は振り回され続けている。