その後、万雷の拍手で出迎えられた似鳥氏は照れたような表情で「君たち、すごいね。これ、自主的にやったの?」と尋ねた。すると、新入社員ではなく、拍手の“コツ”を教えた新人の教育担当の社員が「自主的なものです!」と答えたのだという。

「ニトリの社風は一事が万事、この調子。似鳥氏の存在は絶対で、否定的なことを口にすることはまず許されない雰囲気があります」と、この元社員は振り返る。社員間でも、上司や先輩の指示は絶対という上意下達が特徴なのだという。

それでも絶好調なニトリHDの業績
資本の論理ではDCMHDに圧勝だが…

 もっとも、そんな似鳥会長のカリスマ性を裏付けるのは、ニトリの好調な業績だ。2020年2月期まで33期連続で営業利益が過去最高を更新。さらに21年2月期第2四半期では、新型コロナウイルスの感染拡大による在宅勤務の増加を受けて家具需要が広がり、同利益が前期比45.0%増の805億円と波に乗る。

 ニトリHDは従来、似鳥会長の決断で米国進出を果たすなど大きな賭けで成長してきたわけだが、今回は国内で勝負に出た。家具販売とホームセンターを運営する島忠に株式公開買い付け(TOB)を実施すると10月29日に公表したのだ。

 島忠には、ホームセンター業界大手で「ホーマック」などを運営するDCMHDが10月2日にTOB実施を表明。ただ、DCMHDが示したTOB価格である1株当たり4200円に対して、ニトリHDは5500円を提示した。

 DCMHDがTOBを公表する前の10月2日時点で、島忠の株価の終値は3520円だったが、その後4000円を超えた。そしてニトリHDのTOB観測が報じられた21日には、前日の4190円から4805円へと一気に上昇。30日以降は5500円前後とニトリHDの提示した価格付近で推移するようになった。

 ニトリHDは手持ちのキャッシュが豊富だ。21年2月期中間期で見ると、ニトリHDは現預金を2330億円有しており、同じ期のDCMHDの746億円と比べると3倍超。買収価格の総額でもニトリHDが2100億円、DCMHDが約1600億円と差がある。島忠の純資産額が20年8月期で1815億円であることを考えれば、ニトリHDが「おっ、ねだん以上。」での買収を提案したということだ。

 DCMHDは10月30日に「当社こそが島忠にとって、最もシナジー効果を発現しやすいベストパートナーであると確信しております」とのコメントを発表し、ニトリHDへの対抗心を見せたが、資本の論理で言えば、ニトリHDの圧勝ということになる。

 では、島忠がもしニトリHD傘下となった場合、そこで働く島忠の従業員が果たして、会長のための“拍手の練習”をするようなニトリHD固有の社風になじめるのだろうか?