フランスの名門・マルセイユで待つ逆境、それでも行く理由

 帰国後もインプット作業に余念がなかった、長友を取り巻く状況が一変したのは8月中旬だった。仏リーグ・アンで歴代2位タイとなる9度の優勝を誇り、昨シーズンも2位に入った名門マルセイユから声がかかった瞬間に、他のオファーをすべて断ってほしいと長友は代理人に告げている。

 マルセイユには5シーズン目を迎える酒井宏樹が在籍している。ロシアワールドカップを含めて、日本代表で何度も両翼を形成してきた右サイドバックへすぐに連絡。さまざまな情報を収集した長友は9月2日の入団会見で、プロになって5つ目の所属クラブとなるマルセイユをこう語っている。

「町の雰囲気も最高だし、ピッチに入るとみんながプライドを持って戦う、素晴らしいクラブだと宏樹は言ってくれました。伝統あるフランスの名門で、世界的にも有名なビッグクラブで、プラス、今シーズンのチャンピオンズリーグにも出場する強豪クラブに来られて本当に最高の気分です」

 マルセイユの左サイドバックには年代別のフランス代表を経験し、昨シーズンまでの3年間で81試合に出場している、26歳のジョルダン・アマヴィが君臨している。ポルトガル出身のアンドレ・ビラス・ボアス監督のファーストチョイスは、今シーズンもアマヴィで変わりはない。

 それでも長友へオファーを出したのは、アマヴィのバックアップを探していたからだ。直前には、ラ・リーガ1部の強豪アトレティコ・マドリードに所属していた、U-23ブラジル代表のDFカイオ・エンリケの獲得合戦で、マルセイユは同じリーグ・アンのモナコに敗れていた。

 必然的に方向転換を強いられたマルセイユは、日本代表として3度のワールドカップに出場し、7年間所属したインテルミラノでは副キャプテンを務めた、濃密な経験を持つ長友に注目した。無所属になっていた関係で移籍金が発生しない状況も、視線を長友に向けさせる要因になった。

 ただ、確固たる居場所を築き上げているレギュラーがいる状況に加えて、契約期間も1年となった。待ち受ける逆境を承知の上で、それでもヨーロッパ5大リーグのひとつであるフランスの名門の一員になった理由を、長友はパナマ戦前のオンライン取材で日本代表の存在に帰結させている。

「僕のサッカー人生の中心には代表があると、代表で活躍したいという信念というか覚悟はブレていないとあらためて実感しています。代表がなければマルセイユでの厳しい環境に、チャレンジしていなかったと思うんです。もちろんフランスは簡単な世界ではありません。トルコよりは明らかにレベルが上がるし、フィジカルの強さやスピードの面でもセリエAより上だと思っています。そのマルセイユへ挑んでいけたのは、本当に難しい戦いを選べたのは、僕の中心に代表があるからです」