幻の30兆円上場、アリペイの真実#1
Photo:Wang HE/gettyimages

スマホ決済アプリ「アリペイ」で知られる金融ベンチャー、アント・グループのIPOが突然延期された。その背景には金融当局と民間企業によるイノベーションと規制を巡る長年の対立があった。特集『幻の30兆円上場、アリペイの真実』(全5回)の#1では、IPO延期の内実に迫る。(ダイヤモンド編集部特任アナリスト 高口康太)

アリペイ上場の熱狂から
阿鼻叫喚の悲鳴に

 支付宝(アリペイ)は中国のモバイル決済アプリだ。日本でも利用可能な店舗が多く、コンビニやレストラン、百貨店などあちらこちらに張り出されているロゴを目にした人は多いだろう。日本のみならず、今では全世界の200以上の国と地域で利用可能なグローバルサービスだ。中国ではお財布代わりに日常の買い物などの支払いから公共料金の支払い、飲食店や映画館の予約まで幅広い領域をカバーするスーパーアプリとして多くの人に利用されている。

 このアリペイを運営するのがIT大手アリババグループの関連企業であるアント・グループ(2020年に社名をアントフィナンシャルから変更)だ。同社の評価額は1500億ドル(約15兆6000億円)に達しており、世界一のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)と評価されてきた。

 この世界最強の金融ベンチャーがついに上場する――。今秋、中国証券市場は熱狂の渦に包まれていた。アント・グループの上場を巡り、日々景気の良いニュースが飛び交っていたのだ。

「345億ドル(約3兆5800億円)を調達、史上最大のIPO(新規株式公開)に」
「上場後の時価総額は3000億ドル(約31兆2000億円)を超える見通し」
「個人投資家のIPO応募倍率(上海市場)は872倍と超人気に」
「アント・グループの未公開株を組み込んだファンド、600億元(約9600億円)がたちまち完売」

 ところが上場予定日の前々日に当たる11月3日、突如としてIPO延期が発表された。一獲千金を見込んでいた個人投資家からは阿鼻叫喚の悲鳴が上がる大混乱となった。30兆円企業の誕生が幻で終わる。この前代未聞の事件の陰ではいったい何が起きていたのか?