今年もノーベル賞の季節が到来し、日本人受賞者を期待して賞レースを予想する向きが増えてきた。日本はアジアでも突出した数の理系ノーベル賞受賞者を輩出してきたのだ。その中の一人が、青色LEDの産業化で受賞した中村修二氏。特集『企業直撃 新・地政学リスク』(全14回)の#12では、中村氏が中国・深センに持つ、謎めいた研究所の深層に迫る。そこには米中対立の最前線があった。(ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)
深センに設立された
中村氏の名を冠する研究所
中国南部の都市、深セン。ファーウェイ(華為技術)やテンセント(騰訊控股)といった成長企業を生み出し、ハイテク産業の揺り籠となったこの都市に、深セン市中光工業技術研究院という名の研究所がある。別名、中村修二激光照明実験室(激光はレーザーの意)。2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏を招聘し、深セン市の予算で16年11月に設立された。資本金は1000万元(約1.6億円)だ。
中村氏は日亜化学工業での青色LED(発光ダイオード)開発を経て、2000年から米カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCサンタバーバラ)教授を務めている。現在も米国が拠点だ。中国の研究所では理事会名誉理事と学術委員会主席を務めており、UCサンタバーバラでの教授職と兼務していることになる。
この研究所は、決して秘密の存在ではない。公式ホームページ(下写真)があり、情報量は乏しいながら誰でも閲覧可能だ。中国メディアは、研究所設立当時やその後の関連イベントで現地を訪れた中村氏の様子を多数報道している。日本のメディアにも言及している記事がある。その一方で、研究所のこれまでの成果はおろか、外観や内部の様子を伝える情報すら見当たらない。
拡大画像表示
いったい研究所は本当に存在しているのか。存在しているなら、どんな状況なのか。ダイヤモンド編集部は、研究所が入居するオフィスビルに出入りしている市民の協力を得て、現地の状況を知ることに成功した。