“どん底”に落ちたら「お祝い」したほうがいい
――では反対に、どん底のときはどうしたらいいですか?
「どん底のとき」「人生最悪の日」にやることは、じつは決まってるんです。それは「お祝いすること」。もう、それしかないでしょ。
――は? お祝い……ですか?
当然です。
だって、その時が人生最悪なんですから、これからは何をやっても上昇しかないでしょ? そんなときは、お祝いするしかないでしょう。鯛を買ってきて、赤飯炊いて貰って、お祝いするのが一番。本当にそうするべきなんです。
でも、みんな人生最悪の日には首を吊る。ホント、もったいないです。本来はお祝いするべきときなのに……。
――なるほど……。そういえば、『反省記』の中でも、アスキーの経営で追い詰められたときに、西さんがビルのトイレの窓から飛び降りそうになったという衝撃のエピソードが描かれていますね。
あのときは、本当に死ぬ直前までいきました。窓枠が小さくて体が入らなかったけれど、もう少し窓が大きかったら、そのまま飛び降りていたでしょう。
今回、本を書くためにその現場に訪れてみたんです。写真を撮ろうと思ってね。そしたら、トイレが改装されて、窓はなくなってしまっていたんですが、今でも、あのときの感覚はありありと覚えています。
斜めに窓が開くような構造になっていて、お腹くらいまで乗り出していたんです。そのとき、ちょうど銀行の人間がトイレにやってきて、「西さん、何やってるんですか!」って声をかけて来られた。それで僕が「いいんです。俺はもうここで死ぬんです」って言ったら、恐れをなしてその日はお帰りになりました。
――そうだったんですか……。
それでね、いよいよ「俺は、本当にここで死ぬんだなぁ…」と思って、窓の外を見たら、そこは7階だったんですけど、隣のビルとの間隔がとても狭くて、おまけに、隣のビルの外壁がすごくザラザラした壁だったんです。
本当に不思議なんですけど、そのときは「ここから飛び降りたら、隣のビルの壁にたくさん擦れて、下に落ちるまでに血だらけになっちゃうなぁ。それは嫌だな…」と思ったんです。
どうせ死ぬんだから、血だらけも何も関係ないんですけど、そんなことを思ったのを鮮明に覚えてます。
――なんか、すごいリアリティを感じます。
うん。死のうとしたときに、人間って、そんなことを考えるのか、と今も不思議な気がします。
でも、まぁ、結局、窓枠が小さすぎて、飛び降りられなかったから今があるんですが、とにかく、人生最悪の日に死んじゃうなんて、完全に間違ってます。「どん底」のときは静かに、これからは上昇だとお祝いする。これに尽きます。
――西さんがそう断言されると、納得感があります。ところで、やっぱりそのときが西さんにとって「一番のどん底」だったんですか?
どうですかね……。もちろん、あのときも辛かったけれど、今、振り返ってみると、本当のどん底は、ビル・ゲイツと別れることになったときと、アスキーの社長を辞めなきゃいけなくなったとき。その2回だったと思います。