ビル・ゲイツとともにマイクロソフトの礎を築き、創業したアスキーを日本のIT産業の草分けに育てるなど、偉大な足跡を残しながら、その後、両社から追い出され全てを失った西和彦氏。そんな西氏の「半生」を『反省記』として著した本が大きな話題となっている。
マイクロソフトやアスキーで、「時代の寵児」をもてはやされたこともあれば、「失敗者」のレッテルを貼られ、人や会社と決別する辛い経験もした。そんな「絶頂」と「どん底」を知る西氏に、「絶頂のときの生き方と、どん底からの這い上がり方」についてリアルな話を聞いた。本物の経験者が語る「どん底の話」はとりわけ興味深い!(取材・構成 イイダテツヤ/撮影・疋田千里)
――『反省記』には、これまで西さんが経験してきた、さまざまな「絶頂」と「どん底」が克明に記されています。まるでジェットコースターに乗っているような感覚。あまりに赤裸々なので、ハラハラしながら読みました。そんな西さんに聞きたいことはたくさんありますが、まずは「絶頂のときは何をすべきか」を教えてもらえますか?
絶頂のとき、一番大事なのは二、三歩引いてみること、これに尽きますね。
でも、これは難しいんですよ。だって、そもそも「今、自分が絶頂にいる」っていうのは、自分にはわからないですからね。後から振り返って「あのときは絶頂だったな」ということはあっても、「まさに今、自分が絶頂にいる」とは認識できるものではないです。
ちょうどジェットコースターのようなもので、ジリジリと上昇しているときはどこまで上昇するかはわからない。頂点を越えて、下降し始めたときになって初めて「ここが絶頂だった」と気づくわけです。
だから「今、自分が絶頂にいるか、どうか」を少しでも把握するために、冷静になって二、三歩引いて見る。この意識が一番大事です。ジェットコースターだって50メートルくらい離れれば、どの高さにいるのかはっきりわかるでしょ。
――なるほど。ちなみに今振り返ってみて、西さんにとって「絶頂だった」と感じるのはいつですか?
自分が持っているアスキーの株が、300億円を超えたときじゃないですか。
あのとき、自分が絶頂にいることを知っていれば、最低でも3分の1は売ってました。それで100億の現金を手にしていれば、アスキーの経営が苦しくなったとき、そのお金で大株主の責任として、いくらかでもリカバリーできましたからね。
でも、そのとき、僕がどう思っていたか?
今は300億だから、もう少ししたら500億になる。その後、1000億になる。そう思っていたんですよ。バカだったというか、「絶頂とはどういうものか」を知らなかったんですね。
今の僕なら、株が100億になったとき、その瞬間に半分は売っちゃいますよ。それが絶頂かどうかなんてわかりませんけど、少なくとも、冷静に二、三歩引いて自分のことを見るようになりましたからね。もっとも、社長なら簡単に株は売ることができないですが……。