4.受益者の立場の堅持
顧客やユーザーの気持ちになってサービスを考えられる人である。IBMが一時期瀕死の状態にあり、企業分割が計画されていた際、CEOに就任したガースナーは、顧客の立場から見て、IBMの持つ技術と商品のすべてを統合して提供することこそが最大の価値だと認識していた。それは自分が別の会社のトップとしてIBMに仕事を任せた経験、つまり、自身がIBMの顧客だったときの経験から得られた考えであった。
Jリーグチェアマンの村井満氏はサッカー界の人ではなく、サッカーの熱狂的サポーターだったが、チェアマンになってからも、われわれサポーターがどう感じるかを第一に考えて意思決定してくれている。このブレの無さが素晴らしい成果を生んでいる。お客さまを一番上に置く逆さまの組織図を使っている企業はあるが、本当にそのような覚悟と思考で普段から意思決定できる人は、特別な存在として認知される。
5.グレーゾーンを攻める人
危険で誰も攻めない領域をリスクヘッジしながらごりごりと攻めて大金を獲得し、影響力を行使してそのビジネスを社会に根付かせ、会社そのものもまともな組織運営体制にして(ロンダリングして)、社会の公器として認められる、という方法を採る人である。いつの間にか社会貢献のために起業したような偉大な成功物語が喧伝され、天才と言われるようになるが、天才なのかペテン師なのか評価が分かれたりする。
6.特別な感知力を持つ人
これまで述べてきた人とは違い、この人は「本当の天才」の可能性がある。同じものを見ていても普通の人とは違ったように見え、感じられるのである。私のある知人は、共感覚の持ち主であり、文字を見るとそこにないはずの色が見えたりするという。作家である彼女は、人には見えない隠れた秩序や法則の存在を把握することができ、それを著作に反映させている。認知構造が常人とはかなり違うのだ。
1も2も基本的にとても優秀ではあるが、天才ではない。3は場合によっては、その、のめり込めるという資質に天賦の才があるかもしれないが、成功するすばらしいアイデアの前には多くの失敗もある。4は偉大なる常識人を維持できるという意味では天才性があるかもしれない。5はリスクマネジメント能力の高さが際立っている人であり、これは計算高い賢い人であって天才ではない。6は天才かもしれないが、ほとんどいない……。
そんなことから、天才なんて基本的にはオフィスにはいないというふうに、私は思っている。これは悲観しているのでもなく、天才と呼ばれる人を貶(おとし)めているのでもない。むしろ、普通の人でも機会に恵まれると天才の仕事といわれるような仕事をすることができるということなのである。上手に状況を作りさえすれば、天才を生み、その成果を組織が享受することができるはずではないかと思う。