「やり切る」とはプロダクトを作り切ることだけではない

 よく、新規事業の企画をまとめたこと、プロダクトを目標期日までにローンチしたことを指して「やり切った」という人がいる。しかし、私はそれだけでは「やり切る」とは言えないと考えている。

 プロダクトを実際にローンチし、初期の顧客が付き、売り上げをあげ、損益の管理に至るまでのPDCAを回す。もし道半ばで事業がうまくいかなければ、軌道修正を繰り返し、最大限の改善をほどこし、そのうえで成功か失敗か判断がつくところまでやる。そこではじめて「やり切っている」と言える。

 そのためには、単なるプロダクト開発にとどまらず、ビジネスを回すための体制づくりや、カルチャーなども含めた包括的な取り組みが必要だ。私は「やり切る」を以下の氷山のイメージで考えている。

リーダーに必要なのは、複合的な視点と、腰を据えて取り組む覚悟

「やり切る」とは、単にモノを開発するだけでなく、ビジネス面、推進体制、カルチャー面も含めた包括的な取り組みであると述べた。それを実現するリーダーに求められるのは、複合的な視点と、腰を据えて取り組む覚悟である。

 事業立ち上げの段階で、売り上げが少ない、当社がやるような事業規模ではないと言い出す人がしばしばいる。たしかに売り上げは重要な指標ではあるが、特に新規事業の初期段階においては、どれだけユーザーを獲得できているか、いずれは売り上げを構成していくKPIがきちんと伸びているか、あるいはビジネスモデルや推進体制に問題がないか等を複合的な視点で評価する必要がある。

 そして、スケールまでX年必要だと判断したのなら、そこまではきっちりと腰を据えて取り組み、その上で成否を判断する。プロダクトとは関係のない都合で、開発を途中でストップしたり、様子見したりしてはいけない。あらかじめ撤退基準を決めておき、そこまでは絶対にやりきる、そのためのリソースを惜しみなく提供するという、途中で終わらない覚悟と仕組みが必要だ。

 大企業ではいまだに「3年で単年度黒字、5年で累積損失を解消」といったことが事業計画上求められる場合もあるようだ。既存事業の派生のような事業であればともかく、変革の旗手となるような新規事業を創出するのであれば、少なくとも5年以上は腰を据えて取り組むべきだろう。

ぶれないために最も重要なのは「人」

 ここまで、変革を実行に移し、やりきるための処方箋を紹介してきた。最後にあらためて強調しておきたいのは、戦略がぶれてしまう一番の原因は、人が変わってしまうからだ。日本企業のトップ層の在任期間の短さや、頻繁な人事異動の弊害については以前の記事でも述べた通りだ。あなたがもし経営者か、あるいは経営層ではなくとも「変革の実行者」であるならば、少なくとも5~6年間、できれば10年間ほどはじっくりと変革に取り組み、最後まで見届ける覚悟が必要だ。

 日本の大企業は、頭脳、パッション、推進力のどれをとっても優秀な人材が豊富である。にもかかわらず、人事制度などにより彼らの能力が解放されておらず、非常にもったいない状況が続いているのだ。もしトップ層・リーダー層がより長期的な視座を持ち、粘り強く変革に取り組み始めれば、日本企業には計り知れない成長余地があるだろう。

 さて、この連載も8回を迎え、ありがたいことに読者やクライアントの方々から質問や感想をいただく機会が増えた。次回は、いただいたご質問のいくつかにお応えしたい。