リクルートは当時、5年10年という歳月をかけて変革を実現した。一方、コロナ危機において経営者が直面している課題は、日々変化する状況をいかに的確にとらえ、スピーディーな意思決定を下すかである。一度打ち出した方針を転換せざるを得ない場面も多いだろう。ここ数週間で何を決断したか、あるいは決断しなかったかによって、数年後に決定的な差が生まれるはずだ。

 危機的な状況において、スピードは最も重要な要素の一つである。以下、企業の迅速な意思決定を阻害する原因について考えたい。

 私がこれまで多くの大企業と接してきた経験から言うと、大きく5点あるように感じている。

(1)トップやトップ層が人事異動でコロコロと変わる上に、組織が縦割りであること
(2)意思決定層のデジタルリテラシーの低さ
(3)四半期決算開示に起因する短視眼的な経営
(4)日本型CEOの低報酬、長期インセンティブ比率の低さ
(5)既得権益層の「逃げ切り」思考

 今回は1つ目の原因として、「トップやトップ層がコロコロと変わる上に、組織が縦割りであること」を挙げたい。

社長が4~5年で変わる企業に
本当の変革は望めない

 日本の会社のサラリーマン社長の任期は、わずか4~5年であることが多い。これがスピーディーな意思決定を阻害する1つ目の原因だ。最初の1年は社長職に慣れるための助走期間、最後の1年は引継ぎモードであり、社員も次期社長の方を向き始めている。何かに取り組んで結果を出す期間が実質2-3年間しかないというのでは、あまりに短い。もし1年以上の開発期間が必要な案件であれば、成果らしきものはほぼ何も残せず、「何かに着手した」といった程度で終わってしまう。

「社長に10年間の任期を保証すべき」ということでは必ずしもないが、会社が良い方向に動いているのであれば、社長はできる限り長く代わらない方が良いだろう。特にコロナ危機のような非常時において、非常時に合わせた体制づくりのためではなく、社内政治でトップを変えようだとか、定期人事異動のために担当を変えようといった議論をしている企業があれば、まず生き残れないだろう。非常時に合わせた体制作りのためであれば別だが、能天気に人事異動を発令する大企業はいかがなものかと思う。

 トップの在任期間が長い企業の一例を挙げると、たとえば私がかつて在籍していたディズニー関連では、オリエンタルランドの加賀見氏のCEO歴は約25年、ザ・ウォルト・ディズニー・カンパニー米国本社のボブ・アイガー氏は約15年、その前任のマイケル・アイズナー氏もまた20年以上CEOを務めた。また、手前味噌で恐縮だが、BCGの前CEO、ハンスポール・バークナーは3期3年で9年間その任につき、その間にBCGをそれまでの3倍の規模にまで一気に成長させた。現CEOのリッチ・レッサーも既に8年目に入っており、数々のM&Aやタレント獲得(BCG Digital Venturesもこの一環である)によってBCGのデジタル関連の組織能力を一気に引き上げることに取り組んでいる。

 わずか数年の任期では、せっかく正しい意思決定がなされたとしても、その間に考えを浸透させ、後任候補らに路線を踏襲させるよう徹底することには限界がある。結果、誰もが「様子見」になってしまうのだ。

 たとえば私がかつて関わった取り組みでは、とある大企業と共同でおもしろい企画をつくり、いざ開発してユーザーの反応を見ようとなった際に、突如「待った」が掛かった。理由を聞くと、先方の経営陣が交代し、それに伴って管掌の役員も代わり、新体制になるからだというものだった。こういった苦い経験は枚挙にいとまがない。