鬼ヶ島から財宝を持ち帰った桃太郎を待っていたのは、毎年の確定申告でした。果たしてこの財宝はどう申告したらいいのか、鬼退治に使った「きびだんご」は経費として認められるのか――。
そんな疑問にこたえる新著『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』では、知らないと損をする、でも説明されてもわかりにくい。そんな税金の世界を、誰もが知ってる昔ばなしでシミュレーション。ストーリー仕立てで楽しみながら、税金の知識が身につくと早速評判になっています。
こちらの連載では、本文の中からご紹介していきます。今回は、「桃太郎」の3回目になります。(イラスト・佐々木一澄)

「桃太郎」(3)桃太郎のきびだんごは現物支給の「給与」にあたる!?

「桃太郎」の2回目はこちらになります。

桃太郎の奪い返した財宝は、「一時所得」?「雑所得」?

高橋税理士(以下「高橋」) つまり今回の場合、鬼が違法な手段で集めた財宝を、桃太郎さんが違法な手段で奪い返して独り占めしても、桃太郎さんの手元に利益が残ったのなら課税対象。所得税がかかります。

アシスタント小沢くん(以下「小沢」) ですって!

おばあさん ちょ、ちょっと待ってください! 所得税って、『鶴の恩返し』の方みたいに商売をなさっている方の税金なんじゃないんですか? うちの桃太郎は、別に鬼退治を商売にしているわけじゃないんですよ? 悪さをする鬼を退治して、たまたま、たまたまそこにあった財宝を持ち帰って……。

小沢 たまたまねぇ……。

桃太郎 ……!!

小沢 ごめんごめん! 刀から手を離して!

高橋 わざと持ち帰っても、たまたま持ち帰っても、理由はなんでも構いません。税金は儲かったかどうかしか見ませんので。

小沢 ドライ!

高橋 それはともかく、「商売をしている人の税金では?」という疑問、ここはポイントですよ。おばあさん、実は所得税の対象となる利益(所得)には10種類あるんです

【所得税の対象となる利益(所得)は10種類】
# 所得の区分 説明
1 利子所得 預貯金や公社債の利子などに係る所得
2 配当所得 株主が法人から受ける配当などに係る所得
3 不動産所得 土地や建物などの貸付けによる所得
4 事業所得 卸売業、小売業、サービス業その他の事業から生ずる所得
5 給与所得 勤務先から受ける給料、賞与などの所得
6 退職所得 退職により勤務先から受ける退職手当などの所得
7 山林所得 山林(立木)を譲渡することによって生ずる所得
8 譲渡所得 土地、建物、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することによって生ずる所得
9 一時所得 右の1から8までのいずれの所得にも該当しないもののうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外のものであって、労務その他の役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得
10 雑所得 右の1~9のいずれにも該当しない所得の区分
※「No.1300 所得の区分のあらまし(国税庁ホームページ)」を基に作成

高橋 どんな所得なのかによって、税金の計算方法が違うんですよ。10種類のうち8種類は収入の区分が決まっていて、例えば『鶴の恩返し』の方は反物を売る商売だから、「事業所得」にあたります。

おばあさん では、あの財宝はどの区分になるんです?

高橋 残りの2種類、他からこぼれたノンジャンルの収入を担当する「一時所得」と「雑所得」ですね。桃太郎さんはここに当てはまります。

小沢 鬼退治で持ち帰った財宝なんて、ノンジャンルの収入の極みですもんね。

高橋 そうそう。で、問題は2つのうちどちらなのか?なんだけど……。まぁ雑所得かな。

小沢 その2つってなにが違うんですか?

高橋 意図せず偶然得た収入が一時所得。競馬で当たったとか、埋蔵金が出たとか、偶然儲かったのが一時所得だね。それ以外が雑所得となるので、鬼ヶ島の財宝は……さっきおばあさんは「たまたま」って言ってたけど……偶然得た収入ではなくわざわざ鬼を退治しに行ったという労務の対価なので、雑所得とみなされるでしょう。

小沢 鬼ヶ島から持ち帰った財宝は雑所得で、所得税がかかると。

おばあさん そうなのですね……。わかりました。そこまで理路整然と説明されては仕方ありません。桃太郎、帰りましょう。

高橋 あ、待ってください。雑所得は必要経費が認められるんです。さっき自腹で色々準備されたとおっしゃってましたから、そのぶん税金が安くなりますよ。きびだんごも経費になると思います。

きびだんごは現物支給の「給与」にあたる

小沢 えっ、きびだんごって、犬・猿・キジにあげた、あのきびだんごですよね?

桃太郎 ……。(きびだんごを差し出す)

小沢 そうそうこれこれ。くれるの? じゃ1個いただきます。もぐもぐ……。

高橋 それ食べちゃうと、家来にならないといけないんじゃない?

小沢 ……あ!

桃太郎 ……!!(税理士を指差す)

小沢 いや、「かかれ!」みたいにされても攻撃しないよ!?

高橋 どうやらまだ敵だと思われているみたいだね。これからお得な話をしようとしているのに……。

おばあさん 先生、きびだんごが経費になるって、本当なんですか?

高橋 なりますよ。あれは犬・猿・キジへの給与ですからね

小沢 給与!? でも、さっき「桃太郎は鬼退治を商売にしていない」って話だったじゃないですか。

高橋 確かに、桃太郎は鬼退治を事業にしてるわけじゃない。「鬼退治で年商何1000万」みたいなことじゃないからね。だから今回の鬼退治は、単発の仕事。その労働(鬼退治)のために犬・猿・キジを雇用して、対価として給与(きびだんご)を渡したとみなせる。君のアルバイト代と同じだよ。

小沢 バイト代できびだんごもらったら怒りますよ。

高橋 アハハ、お金でも現物支給でも、労働の対価として支払われれば給与だからね。きびだんごはおばあさんが作ったものだから、その材料費は経費にできますよ。

おばあさん そうなんですね……。では、他に我が家で用意したものも?

高橋 そうです。同じように、腰に差している刀や、“のぼり”に関わるお金も、「鬼退治のために使ったお金」として経費にしていいでしょう。日本一って書いた“のぼり”なんて、鬼退治以外に使わないでしょうし。

小沢 というかそれ、何の日本一なんですか?

おばあさん おじいさんと盛り上がって、なんとなく付けてしまったんですよね。

高橋 その場のノリだったんですね……。ちなみに刀や甲冑(かっちゅう)は、おじいさんおばあさんから与えたものですか?

おばあさん これはおじいさんが柴刈り仲間から買ったものです。「日本一」の“のぼり”と一式で、安くしてもらいました。

小沢 桃太郎の衣装ってセットアップだったんですね。

高橋 そんなわけで、きびだんごや甲冑など、鬼退治に使ったものは経費として認められるでしょう。所得税を納める際は経費の申告をお忘れなく。

おばあさん ご丁寧にありがとうございます。それで、ご相談のお代はいかほど……。

高橋 うーん、まぁ面白かったので今回はいいですよ。そちらの世界のお金と物価も違うでしょうからね。

桃太郎 ……。(きびだんごを差し出す)

高橋 私にくれるのかい?

小沢 先生!それ受け取ったら家来になっちゃいますよ!

高橋 いや、これは家来に渡すきびだんごじゃないよね?

桃太郎 ……。(うなずく)

高橋 ではこちらは受け取りますよ。税務相談という労働に対する対価、としてね。

(次回へ続く)