鬼ヶ島から財宝を持ち帰った桃太郎を待っていたのは、毎年の確定申告でした。果たしてこの財宝はどう申告したらいいのか、鬼退治に使った「きびだんご」は経費として認められるのか――。
そんな疑問にこたえる新著『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』では、知らないと損をする、でも説明されてもわかりにくい。そんな税金の世界を、誰もが知ってる昔ばなしでシミュレーション。ストーリー仕立てで楽しみながら、税金の知識が身につくと早速評判になっています。
こちらの連載では、本文の中からご紹介していきます。「桃太郎」の4回目は、著者高橋税理士からの解説になります。(イラスト・佐々木一澄)

「桃太郎」(4)オリンピックとサッカーW杯、報奨金が非課税なのはどっち?

「桃太郎」の1回目はこちらになります。

理由はどうあれ「得」をしたなら課税の対象。でも非課税のものも

 今あなたが手にしたお金、所得税がかかるか否か、パッと答えられるでしょうか?

 答えられないあなたのために、私たち税理士はいます。よくある質問に「どういう人に所得税がかかるんですか?」というのがあるのですが、そんなときは「どんな人でも、何かしらの収入があったら所得税の対象になる可能性がありますよ」とお答えするようにしていますね。所得税は「収入」こそがスタートライン。まずは「収入が存在する」ということを認識するところから始まるのです。

 とはいえ、収入にはさまざまな性格のものがあります。そして利益の計算もその収入の性質に応じて行わなければなりません。そこで、所得税では収入を10種類に分け、その性格に応じた経費を差し引くことによって利益を計算することになっています。

 まとめると、利益の計算は以下のような流れで行われます。

(1) 収入があることを認識する。
(2) 収入が10種類のどれにあたるかを判断する。
(3) 収入にかかった経費を計上し、それぞれの種別に応じて利益を計算する。

 今回の桃太郎のケースでは、「鬼ヶ島から奪った財宝はそもそも収入なのか?」というところから話が始まっていました。先ほどの(1)「収入の認識」の部分ですね。おばあさんは「そもそも盗品なんだから」と、収入とは認めていませんでした。

 しかし、税金の世界では「個人が何か得をしたら収入があったとする」というのがオーソドックスな考え方となっています。ここでいう「得」は、現金が入ってくるかどうかは関係なく、さらに発生原因も問いません。違法行為によって財産を得ても、「あなた得したよね」ということで、課税の対象となるのです。「得」の事情をまったく考えないのはドライではありますが、ある意味、非常にシンプルな考え方ともいえます。

オリンピックとサッカーW杯、報奨金が「非課税」なのは?

 ただ、中には得をするのに課税されない収入もあるんです。

 例えば、あなたがオリンピックでメダルをとったとしましょう。メダルを獲得すると、日本オリンピック委員会から選手に対して報奨金が支給されます。現金をもらえば「得」をする、「得」をしたら課税されるんでしょ……と思いますが、実はオリンピックの報奨金は「非課税」なんです

 きっかけは1992年のバルセロナオリンピック。当時14歳で金メダルを獲得した岩崎恭子選手に支給された報奨金が、「一時所得にあたる」として課税されたんです。しかし、これがマスコミを賑わせたことから、オリンピックの報奨金は所得税が課されないこととなりました。

 こうした非課税の所得は法律で決められています。裏を返せば、法律で「非課税」とされていない収入は課税対象となるわけです。オリンピックと違い、法律上「非課税」と定められていないサッカーW杯などの報奨金は課税対象となってしまうので、日本代表の方はご注意ください。

 ちなみに、新型コロナウイルスの流行により、国や地方公共団体から給付金などが支給されましたが、こちらに関しても原則としては課税対象となっています (※10万円の特別定額給付金については非課税というルールが設けられています)。

 【非課税になる収入の例】
・ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品
・宝くじの当せん金
・サッカーくじのtotoの払戻金 など……

副業は「事業所得」ではない!

 さて、課税対象となる収入が10種類に分けられるのは先にご説明しました。この分類、確定申告の際には私たち税理士が自力で仕分けなければなりません。大変なんですよ……。

 とはいえ、それほどややこしい案件に出合うことは多くないのですが、ここ数年税務署から確認の電話をよく受けるのが、「副業」に関する区分です。

 例えば、小説を書いて報酬をもらう場合。

 作家にとって小説を書くことは生計をたてるための商売ですから、10種類の所得のうち「事業所得」となります。また、私は税理士なので、税理士業での収入が「事業所得」となりますよね。

 では、例えば私が税金とはまったく関係ない恋愛小説を書いて報酬をもらったら、その収入はどの区分になるのでしょうか?

 答えは「雑所得」です。先ほどの表でも最後にある、他のどれにも当てはまらない所得ですね。

 副業による収入は、多くの場合「雑所得」に分類されます。どの収入の区分に納まるのか、その境目の判断はとても難しいのですが、イメージとしては「本業といえるものは事業所得、そうでないものは雑所得」という感じでしょうか。

 ただ、所得税の計算にあたっては事業所得のほうが得になることが多いため、副業であったり、金額が少額であったりする場合でも、「事業所得」として申告する方も少なからずいらっしゃいます。そこに疑問を持った税務署が問い合わせてくるわけですが……問い合わせの段階で雑所得に修正しなければならないことがほとんど。変に疑われてもいいことなんてありませんので、申告の内容に自信があり、理論武装が完璧で、胸を張って大きな声で「これは事業所得です!」と主張できる場合を除き、雑所得にするほうが無難かもしれませんね。

 ちなみに、おじいさんおばあさんは2人でのんびり暮らしていましたから、本業は「鬼退治」ではないでしょう。桃太郎にとっても鬼退治は一回こっきりのお仕事のはずで、副業ともいえます。鬼ヶ島の財宝について所得区分のご相談があったら、迷わず「雑所得」を勧めますね。私なら。

(次回へ続く)