「日本で働いていて良かった」という考えもあった

 厚生労働省の公表数字によれば、新型コロナウイルス感染症の拡大で仕事(=実習先)を失った技能実習生は数多く、出入国在留管理庁は、実習が継続困難となった技能実習生への特別措置*3 を図るなど、民間企業の雇用継続への支援と啓発を行っている*4 。雇用がたとえ継続されても、休暇利用で自国に戻れないことは、留学生や技能実習生をはじめとした在留外国人にはつきまとう悩みだ。

*3 新型コロナウイルス感染症の影響により実習が継続困難となった技能実習生等に対する雇用維持支援
*4 PDF「雇用調整助成金を活用して外国人 技能実習生の雇用維持に努めて下さい

玉腰 自分のことに置き換えて考えていただくと分かりやすいと思いますが、もし海外で働いていて、楽しみにしていた年に一度の帰国もままならず、外に遊びにも行けず、来るはずだった家族も来れなくなったら、それはかなり(メンタルに)こたえるでしょう。技能実習生たちにとっては、そういう寂しい一年だったと思います。

 ただ、帰れないことで鬱屈ばかりしていたかというと、そうでもなかった面もあります。コロナのときだからこそ日本で働けて良かったという面もあったからです。

 幸いにして、わたしたちのいる東北地方は東京などにくらべて感染拡大が緩慢で、そもそも、人が「密」になることが少ないので比較的「安全」だと思われたようです。仕事の減少も比較的小さく済んでいました。コロナの影響で自宅待機になった分も雇用調整助成金で埋め合わせられましたし、6月には特別定額給付金10万円も支給されました*5 。それも、人口の小さな市町村では大都市よりも支給が迅速だったので、申請書を書いてわりとすぐに支給があって、手軽に公的保護にあずかれた感触があったのではないでしょうか。

*5 特別定額給付金の給付対象者は、基準日(2020年4月27日)に住民基本台帳に記録されていた者であり、その条件を満たす技能実習生は給付対象となった。

 一方で、(技能実習生たちの母国である)フィリピンは感染がひどく、経済活動も滞っていて、夏頃に帰国した技能実習生の先輩たちが自国で「仕事がない」という情報がSNSなどで入ってきて、「いま帰っても仕事がない。もうしばらく日本にいるほうが得策だ」という考えが実習生たちの間に広まったようです。

 それで、3年の「技能実習」が終わって本来なら帰国するはずだった人たちも、急きょ、多くの人が帰国を2年延期して(技能実習3号*6 に延長して)日本にとどまりました。

*6 技能実習3号は、3年間の実習期間(1年目が技能実習1号、2・3年目が技能実習2号)を終えた技能実習生が最長2年間延長できる在留資格で、法務省の統計数字では、コロナ禍の影響もあり、取得者が増えている。

(2020年の)秋に世界的に感染がいっそう拡大し、母国で外出制限が出たり、家族が失業したり、親類や帰国した仲間に感染者が出始めると、「安全な日本で働ける自分たちはラッキーだ」「母国で家族が収入を失っている分、日本にいる自分たちこそが家族の支えだ」という気持ちの人が増えたようでした。

 つまり、2020年は、多くの実習生たちにとって、家族に会いに帰ることができずに寂しい思いを強いられたけれど、ここ日本でがんばることで家族を支えようと前向きに思い直して暮らした――そんな一年だったように思えます。