母国で働くより「出稼ぎ」のほうが「実入り」がいい

 新型コロナウイルス感染症の世界規模の拡大で国家間の移動が現在は不自由となっているが、古今東西、短期労働の就職先を母国以外に求める者は決して少なくない。では、なぜ、フィリピンの人たちは、日本の技能実習制度を利用して、「日本」という地を選ぶのか?

玉腰 フィリピン人は英語もできるので、英語圏に行けば苦労が少なくて済むはずです。にもかかわらず、日本語という高いハードルが待ち受ける日本を選ぶのはなぜなのか――フィリピン人に聞くと、まず、「近いから」といいます。地理的な近さが心理的なハードルを下げているようです。

 ほかに、「日本に親戚がいたから」という答えがあります。日本人と結婚して暮らしているおばさんがいるとか、親戚のおばさんから日本に昔行っていたときの話を聞いたことがある、といったものです。二十数年前、先陣として日本に来たフィリピン女性の存在が次の世代の目を日本に向けさせたということでしょうか。兄がすでに日本で働いていて、弟が後から来たというケースもあります。親類を頼って異国に渡るというのは「移民」*7 の定番といえるでしょう。また、人数は多くないですが、日本のアニメなどが好きで、日本に興味を持ち、「日本で暮らしてみたかった」という若者もいます。

*7 国際連合広報センター[難民と移民の定義]によれば、「国際移民」の正式な法的定義はなく、多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意し、3カ月から12カ月間の移動を「短期的または一時的移住」、1年以上にわたる居住国の変更を「長期的または恒久移住」と呼んで区別することを一般的としている。

 それぞれに、さまざまな理由で日本を選んできますが、根本のところはひとつで、「日本で稼げるから」です。実習生たちは、母国なら月に日本円で2万円から3万円稼げる程度なのが、日本では、最低賃金の水準で残業なしでも月に10万円前後の手取りとなり、フィリピンにいる家族には8万円ほどの仕送りができます。母国で働くより「出稼ぎ」のほうがはるかに「実入り」がいいわけです。

 なかには「出稼ぎの達人」もいます。以前は中東で働いていたとか、韓国にいたとか、台湾で働いたという人たちがいます。彼ら彼女たちは出稼ぎ先から母国に戻ったとたんに収入が減ってしまうわけです。そうなると、安い賃金の母国で働くより、また次の出稼ぎ先を探して出ていこうとするわけです。それで、「今回は日本に来た」という人も珍しくありません。

 だからといって、実習生たちが日本に来る意味を単純に「出稼ぎ」と言い切るのは必ずしも正しくない、とわたしは思います。