「技能実習」での人材育成が日本企業を飛躍させる
現在、日本の労働力人口*8 は2012年から微増傾向にあるが*9 、減り続ける生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)に伴い、今後の減少は疑いの余地がない。そうしたなか、外国人の労働力はとても貴重であり、働き手不足の職場と多くのお金を得たい技能実習生との「見かけ上の相性」は良い。しかし、実習生を単に労働力とみなすような、コロナ禍での解雇*10 といった “使い捨て”めいた事例もあり、「技能実習制度」の名目である「国際貢献」*11 とは程遠い現実が見え隠れしているが…。
*8 15歳以上の人口のうち,「就業者」と「完全失業者」を合わせたもの(総務省統計局/労働力調査 用語の解説より)
*9 「令和2年版厚生労働白書」より
*10 NHK WEBニュース記事「コロナ禍 行き場失う外国人技能実習生 国に実態調査を要請」などを参照
*11 「外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力することを目的としております」(厚生労働省[外国人技能実習制度について]より)
玉腰 たとえば、ある会社にこんな実例があります。
その会社は土木業で、23歳・34歳・41歳の3人の男性の技能実習生を採用しました。
23歳の実習生は、日本のアニメが大好きで「日本で働いてみたい」と思って来日しました。34歳の実習生は母国に7歳のお子さんがいるパパで、家族の生活費や息子の教育費の工面が来日の目的です。41歳の実習生は、8カ月から14歳までの4人のお子さんが母国にいて、34歳の実習生と同じように、その生活費や教育費の工面が目的でした。
来日した当初、23歳と34歳の二人は年齢が若いこともあって日本語の上達が早く、職場の日本人たちにいち早く溶け込みました。それに対して、41歳の実習生は、日本語がおぼつかなく、どちらかというと引っ込み思案となり、影が薄くなっていきました。
ところが、1年を過ぎた頃、重機の運転による高度な作業を任せてみたところ、41歳の実習生が高い技量を発揮しだしたのです。母国での経験が生きてきたのです。若いふたりが、ともすると難しい仕事を避け、軽い作業を望み、現場では「逃げることを覚えたな」などと揶揄(やゆ)されだしたのに対し、41歳の実習生は現場監督の指示にも従順で、任された仕事を次々にこなしていき、仕事の範囲が日に日に広がっていきました。仕事で実力を見せられるようになったことも彼のやる気を引き出したのでしょう。
日本人の現場監督の目から見れば、41歳の実習生は、あと2年も働けば、日本の土木業の「安全で、きれいな仕上がり」を身に付けて帰国するだろうと期待されるようになりました。
実は、フィリピンには日本の大手の建設会社(ゼネコン)が数多く進出しています。日本で「技能実習」し、日本人の仕事ぶりを覚え、日本語も多少分かれば、帰国後に日系企業で働けるかもしれません。日系企業では安定した賃金を望めるため、本人にもメリットがあります。フィリピンの土木施工技術はまだまだ雑だといわれていますが、今後、経済成長していけば、より精度の高さが必要とされていくでしょう。そうした場合に、日本で身に付けた仕事の方法が役に立ってくることも考えられます。
つまり、「技能実習」で人材を育成することが、日本企業の海外展開に貢献するかもしれません。
技能実習制度が国際貢献をうたっていながら実態としては単純労働の受け皿になってしまっているという指摘はよく見ます。そういう側面も確かにあるでしょう。「技能実習です」と、こちらがいくら念を押しても、実習生本人たちが自分たちは「出稼ぎ」で来ているとしか思っていないかもしれません。それでも実質的には本人の仕事のスキルアップになっている場合があります。
単純労働の受け皿にするか、スキルアップにつなげて帰国してもらえるかは、制度の改善も大切ですが、むしろ、職場での人間関係や、実習生たちを見守る、周りの日本人の意識の持ち方に相当左右されているようにわたしは思います。